アンダーグラウンド 村上春樹


2006.10.15 忘れさられつつある事件 【アンダーグラウンド】

                     
■ヒトコト感想
問答無用のノンフィクション。物語形式になっているわけでもなく、淡々と被害者のインタビューが収録されている。被害者の視点でのリアルな描写。特に前半部分では比較的被害の大きい人々のインタビューが登場し、最初から目が離せなくなってしまった。実際に電車に乗りながら本作を読んでいると今、まさに自分が立っているこの場所で何が起きても不思議ではないという気さえ起こってきた。中盤以降もひたすらインタビューが続くのだが、さすがに途中で飽きてくる。被害の度合いもそうだが、皆がある程度同じような体験をしている。そこには目新しい部分はないのだが、それぞれの被害者の人生を考えると深刻にならざる終えない。

■ストーリー

1995年3月20日、晴れ上がった初春の朝。まだ風は冷たく、道を行く人々はコートを着ている。昨日は日曜日、明日は春分の日でおやすみ──連休の谷間だ。あるいはあなたは「できたら今日くらいは休みたかったな」と考えているかもしれない。でも残念ながら休みはとれなかった。あなたはいつもの時間に目を覚まし、洋服を着て駅に向かう。それは何の変哲もない朝だった。見分けのつかない、人生の中の一日だ……。変装した五人の男たちが、グラインダーで尖らせた傘の先を、奇妙な液体の入ったビニールパックに突き立てるまでは……。

■感想
これ以上のノンフィクションはない。まさに被害者の生の声を文章にしているだけだ。物語性も何もなく淡々とインタビュー内容がつづられている。冒頭いきなり生々しく強烈なインタビューがある。僕は正直最初に衝撃を受けた。ニュースなどメディアで報道されるよりも実際に被害者の生の声を聞くことで、まるで自分がその場にいるようなそんな臨場感を感じてしまった。冒頭からかなり強烈な被害を受けた人のインタビューだったので最初の衝撃は想像以上だった。

その後、同じようにインタビューが続くのだが、正直言うと途中でだれてきたというのがある。それは何故かというと、被害者の被害状況が冒頭に比べると明らかに軽症であり、内容的にも同じ場面で同じ現象を見ているので、同じようになるのはしょうがないのだろうが、どうしてもなんとなく変化がないように感じてしまった。それぞれに人生があり、このサリン事件が多大な影響を与えたというのは良くわかる。今だに後遺症で苦しんでいる人もいるということも良くわかる。しかしそれと作品として読者をひきつけることは別だと感じた。

前半の勢いからすると、明らかに後半はトーンダウンしてはいるが、トータルで考えると、まず、自分がほとんどサリン事件について知らなかったということがわかった。これほど多数の重軽傷者がでたことやその後の後遺症。メディアで報道されるのはほんの一部で、水面下ではそれ以上に苦しんでいる人が沢山いるということを改めて知ることができた。

すでに10年以上の時間が経過し、ある意味この事件も風化されつつあるのだが、世界でも稀にみる凶悪テロ事件であるということ。そして自分の中で常に危機意識を持つ必要があるということを改めて認識させられた。恐らく、心構えがあるかないかで、実際に自分が危機に直面した場合でもできる行動に変化があるのだろう。




おしらせ

感想は下記メールアドレスへ
(*を@に変換)
pakusaou*yahoo.co.jp