中国行きのスロウ・ボート 


2007.2.24 何かエロさを感じる 【中国行きのスロウ・ボート】

                     

評価:3

■ヒトコト感想
いくつかの短編集が収録されている。正直言うとわかりにくい。読んでいる間はそれなりに感じるものはあるが、読み終わるとそれらをすべて忘れてしまう。村上春樹をまったく知らない人に対してこの作品の説明をするのはおそらく無理だろう。はっきりとした目的らしい目的を作品の中に見つけることができない。曖昧なまま雰囲気で読ませている。何でもない表現なのに無性に生々しく感じたりもする。特に「土の中の彼女の最後の犬」では彼女の手のひらのにおいを嗅ぐという何でもないシーンにものすごいエロティックなものを感じてしまった。

■ストーリー

青春の追憶と内なる魂の旅を描く表題作ほか6篇。「中国行きのスロウボート」「午後の最後の芝生」「カンガルー通信」など

■感想
「中国行きのスロウボート」本作の表題にもなっている作品。作者の中国に対する強い思いというものを感じることができるが、それだけしかない。初めて出会った中国人がどうしたとか、その人物にどんな感情をもったとか、それらが語られているが、オチは特にない。ただ日常の出来事の中で中国人に注目しているだけのように感じてしまった。

「午後の最後の芝生」は芝生を何か別のものに変えれば、青春時代にひとつのものに熱中する青春物語なのかもしれない。しかしそれをあえて芝生にするのが村上春樹流なのだろう。さらりと読んでしまうとただ芝生を刈るのが好きな変わった青年というだけかもしれない。本質的にはスポーツやゲームに熱中するのとなんら変わりはない。そんなことを言いたかったのだろうか。

「土の中の彼女の最後の犬」は淡々と語られる中でそれまで一切感じなかったエロスというものを感じてしまう。何気ない図書館での出会いから最後に手のひらのにおいを嗅ぐまで。普通の日常では相手の手のひらのにおいを嗅ぐというシチュエーションはまずありえない。そんなありえない日常に言いようのないエロさを感じてしまった。別に手フェチではないが、何か無性に
手に興味がわいてきた

短編としてさまざまな評価があるだろうが、なかなか人に説明するのは難しい面白さがあると思う。



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