月は幽咽のデバイス 森博嗣


2005.11.21 大掛かり過ぎるトリック 【月は幽咽のデバイス】

                     
■ヒトコト感想
タイトルが内容とどれだけリンクしているか分からないが、なかなか興味を引かれるタイトルではある。
狼男がキーワードで不思議な屋敷の密室の中でいかにもな殺人事件がおきる。
ここまではわりとありきたりで、どこにでもある内容だ。
本作の魅力はメインの事件はありきたりだが、登場キャラクター達、
特に保呂草が相変わらず悪いキャラなのでそのへんが楽しめる作品かもしれない。
読み進めていくうちになんとなくトリックは想像できたのだが、予想以上に大がかりなものだった。
トリックが大掛かりだと意外性はあるが途端に現実性がなくなってしまう

■ストーリー
薔薇屋敷あるいは月夜邸と呼ばれるその屋敷には、オオカミ男が出るという奇妙な噂があった。
瀬在丸紅子(せざいまるべにこ)たちが出席したパーティの最中、
衣服も引き裂かれた凄惨な死体が、オーディオ・ルームで発見された。
現場は内側から施錠された密室で、床一面に血が飛散していた。
紅子が看破した事件の意外な真相とは!?

■感想
不可解な事件は確かに読者を引きつける効果はあるだろう。しかしそのトリックを説得力のあるものに
できるかできないかでその作品の質がまったくかわってくる。
どう考えても物理的に人間が介入できないところで起きた事件をどれだけ鮮やかに読者の盲点をついた形で
表現するかということが作者の力量が試される部分だとも思う。

不思議な洋館、狼男など気になるキーワードと殺人事件の現場がまさしく狼に食い殺されたような
惨状であり、密室の中で起こった事件というちょっと考えると不可能に思え、とても興味を引かれる題材だ。
しかしその結末が安易な方向に進んでしまった為にテンションは下がってしまった。

確かにトリックとしては成立しているかもしれないが、その事件が起きた原因がとても大掛かりなものであり
普通では考えられないような仕掛けがある。
それは月夜邸と呼ばれるとてもミステリアスな屋敷なのだと言われてしまえばそれまでだが、
あまりに非現実的であり、警察が介入してその大掛かりな仕掛けに気づかないわけがない。
ましてや密室殺人に関わる部分なのに・・・、そんな無能な警察は今の日本には存在しないだろう。

そんな感じでメインの事件よりも、いつものキャラクター達に興味を引かれる部分が多かった。
特に保呂草に関してはキレル人物というのは表現しているのだが、
そのキレル部分を事件の解決に使うのではなく自分の利益の為、
悪い方向に使うというのがとてもしびれてしまう

前作もそうだったがこの保呂草というキャラクターが存在することでこのシリーズが成立しているとさえも思える。

保呂草に比べると主役であるはずの紅子はいつまでたっても別れた夫のことを
未練がましく思う、ちょっとすっきりせずあんまり魅力を感じないキャラクターに
なってしまっているような気もする。



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