憑神 


2008.1.7 思いのほかシリアス調 【憑神】

                     

評価:3

■ヒトコト感想
映画の予告を見ると、もしかしたらコメディなのかもと思っていた。しかし、実際に読んでみるとかなりのシリアス調であり、考えさせられるものがある。幕末の時代、侍の存在自体があやぶまれながらも、一人武士道を貫き通す彦四郎。疫病神に取り付かれる哀れで、おっちょこちょいな役回りというイメージとは随分かけ離れた、しっかりとした人物として描かれている。貧乏神たちに取り付かれる前から、その能力を活かしきれず、不運がつきまとう彦四郎には同情せざるをえない。いつの時代も不運な人物はいるが、自分の境遇に嘆き悲しむことなく、しっかりとした信念をもって生きていく強烈な心の強さ彦四郎から感じた。

■ストーリー

婿入り先から追い出され、職を失い、すがった相手は神は神でも人に仇なす厄病神。時は幕末、動乱の世に、貧乏旗本・彦四郎の選んだ真実の生きる道とは。

■感想
映画では妻夫木聡が彦四郎を演じており、そのキャラクターからコメディチックに感じていたが、実際は随分としっかりとした、シリアスな作品となっている。貧乏旗本の次男として苦渋をなめながらしっかりと自分の信念を貫く彦四郎。能力がありながらも、それを発揮する土壌がない。同じような境遇にいると感じる人は多いのかもしれない。しかし、彦四郎はそんな境遇にも腐ることなくあくまでも侍魂を貫きとおしている。

貧乏神を他人に移したりと、多少自分勝手な部分もあるが、彦四郎の苦悩を考えるとすべてが許されるような気がした。幕末の時代まで脈々と続く家柄での差別。実力さえあれば、昔ほど家柄を気にすることなく出世できる現代と比べると、随分と不幸な気がしてきた。生まれですべてが決まり、そこから逆転することは難しい。すべての運命を握るのは運だけのような時代において、貧乏神に取り付かれた彦四郎は
とことんついてない存在なのだろう。

彦四郎の不幸な境遇と、結末での感動的な行動。自分の生まれの不幸を呪う前に、努力をしろといわんばかりの説得力がある。最初から最後まで自分の信念を貫き通せば、おのずと道が開かれる。そんなメッセージを本作から感じてしまった。もちろん、押し付けがましい説教じみた言葉があるわけではない。ただ、彦四郎の行動を読んでいると、なんだかんだと難癖をつけて楽な方へ流れがちな人生を少し見直す気分になってくる。

コメディ色はほとんどない、正統派の幕末物語として読めるだろう。



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