2006.11.6 今読んでも決して色あせていない 【時をかける少女】
評価:3
■ヒトコト感想
今更というのはあるが初めて読んだ。映画化されたり、わりと有名だが今までまったく目にする機会がなかった。作品自体は既に発表されてから三十年以上たっている。それらを考えると今読んでも色あせていないというのはすごいことだと思う。子供向けといいながらも十分楽しむことができ、タイムパラドックス物としての面白さも詰め込まれている。ただ、少し気になったのはやはり時代のせいかもしれないが、言葉遣いとその年齢にしては微妙な子供っぽさ。現代であればもう少し男女間の関係や雰囲気が違ったものになっていただろう。それ以外は申し分ない。同時収録の他の短編作品についてはほとんど印象にない。
■ストーリー
放課後の誰もいない理科実験室でガラスの割れる音がした。壊れた試験管の液体からただようあまい香り。このにおいをわたしは知っている―そう感じたとき、芳山和子は不意に意識を失い床にたおれてしまった。そして目を覚ました和子の周囲では、時間と記憶をめぐる奇妙な事件が次々に起こり始めた。思春期の少女が体験した不思議な世界と、あまく切ない想い。
■感想
微妙な言葉遣いと雰囲気だけが時代を感じさせるが、それ以外はまったく色あせていない。新しさを感じることはないが、十分現代の作品としても通用すると思った。それが結局アニメ映画としてスマッシュヒットした要因なのかもしれない。今まで言葉としては何度も耳にする機会はあったが実際に作品を目にすることはなかった。まったく予備知識なしに読んだのだが、予想通り面白かった。子供向けというのを加味しての話ではあるが、子供が本を好きになるきっかけになりうる作品だと思う。
時間と共に場所も移動する能力。それは非常に面白くいろいろなパターンに使えるところだと思う。しかし本作はそれをあえて頻繁に使うことなくシンプルに二、三回で終わっている。このことが物語を複雑にするのを防いでいる。タイムパラドックス物だと宿命なのだろうが、面白くしようとすればするほど時間的概念を無視して複雑になってしまう。何度も同じ場面を繰り返すパターンもあるのだろうが、本作のように非常にシンプルにする効果は思いのほか大きいと思う。
「時をかける少女」以外にもいくつか短編が収録されてはいるが、それらはほとんど印象に残っていない。インパクトがでかい作品が最初にあると、そのほかの可もなく不可もない作品を埋もれさせてしまいパターンだろう。名作と言われ、多数映像化されてきた作品の原作をやっと読んだという達成感はある。これを子供の頃に読んでいればまた違った感想を持ったことだろう。今読むのが良かったのかそれとも子供の頃に読んだほうが良かったのか判らない。それを確かめるには子供の頃にタイムスリップするしかない。
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