小さき者へ 重松清


2007.7.2 なにひとつ解決していないが… 【小さき者へ】

                     
■ヒトコト感想
どこか歪があり、幸せいっぱいな家族ではない人々の話。主に父親目線の作品が多く、問題もそれに起因している。通常ならば最後に問題が解決し、壮大なカタルシスを得ることができるはずだが、本作に限ってはそれはない。反抗期の息子との関係や、離婚した両親をくっつけようとする子どもなど、読んでいて心が痛くなる場面もある。このような作品を読むと、どうしても自分に置き換えて考えてしまう。果たしてその境遇に耐えることができるのだろうか。結局解決策はなんら描かれていないので、現実でもなぁなぁで済ませるしかないのかと思ってしまった。

■ストーリー

お父さんが初めてビートルズを聴いたのは、今のおまえと同じ歳―十四歳、中学二年生の時だった。いつも爪を噛み、顔はにきびだらけで、わかったふりをするおとなが許せなかった。どうしてそれを忘れていたのだろう。お父さんがやるべきこと、やってはならないことの答えは、こんなに身近にあったのに…心を閉ざした息子に語りかける表題作ほか、「家族」と「父親」を問う全六篇。

■感想
幼い兄弟と年老いた母親の関係を描く「海まで」。これは正直理解できない部分と、他人事ではないと感じる部分がある。まず、おばあちゃんが孫を、あからさまに差別するだろうか。合う合わないはあるにせよ、あそこまで露骨に表面に出すのは不自然だと思った。それと共に高齢者介護の問題もある。自分に置き換えると、この主人公の気持ちが嫌というほどよくわかってしまう。

離婚した両親を持つ子どもたちの「フイッチのイッチ」は、読んでいくうちに、子どもたちの年齢がいったいどれくらいなのかわからなくなった。自分がこの子どもちと同じ年代の時、はたしてこのような考え方をしていたのだろうか。子どもだと思っても、実際には大人の想像以上にいろいろなことを見て、考えている。作者もそのことを十分にわかっているからこそ、この年代の子どもたちを主役にしたのだろう。

全六作とも明確な解決策はでていない。あとがきでも作者はそれを明言していた。解決策がないから駄作だとは思わなし、読んでいても尻切れトンボのように感じることもなかった。物語として一つの決着はつけているような気がした。作品の世界の中では、まだまだ問題は山積みだろうが、その瞬間だけはとりあえず一つの大きな山を乗り越え、新たな困難に向かう準備がしっかりとできている。そんな気がした。

父親世代であれば必ず何か感じるものがあるはずだ。




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