The Book 乙一


2007.12.19 ジョジョという名前の重み 【The Book】

                     
■ヒトコト感想
ジョジョは好きだ。そのジョジョの中でも一番、第四部が好きだ。今回、乙一作であり、舞台が第四部となれば、読まずにいられないだろう。両方好きな者としては、当然期待も大きくなり、それなりに見る目も厳しくなる。正直言うと、期待はずれかもしれない。乙一の真骨頂であるせつなさと、残酷さは感じることができたが、ジョジョっぽさが少ない。スタンドもなんだかぱっとせず、インパクトもない。過去に出版されたジョジョのノベライズと比べるとどうしても、見劣りしてしまう。乙一風のミステリーっぽさは十分でているが、本作はスタンドがすべてだろう。スタンドの能力をもう少し違ったものにしていれば、全体の雰囲気もまた変わっていたかもしれない。

■ストーリー

本の存在により、仗助は死ぬ…。ぶどうヶ丘学園高等部1年の広瀬康一と漫画家・岸辺露伴はコンビニの前で血まみれの猫と遭遇する。猫の飼い主を捜してたどり着いた先には家の中で車に轢かれた女性の奇妙な死体。スタンド・【ヘブンズドアー】によって探り出した手がかりは「腕に赤い爪痕のある男子学生」。三ヶ月にわたる事件はこうして幕をあける。

■感想
ここからは、ネタばれがふくまれるが、スタンドがどうも岸辺露伴のヘブンズドアーとかぶってしまう。作者独自の色を出そうとしたのか、無理やり小説に絡めているような気がする。見方を変えると、ヘブンズドアーの劣化版としか思えなかった。その能力の陳腐さからか、戦いはどうしてもその場しのぎになってしまう。正体がばれると、仗助や億泰にはまったく歯が立たなくなってしまうため、ラストの戦いも激しさを感じることがない。結局はスタンドよりもナイフの達人という描写の方が正しいようにさえ感じてしまった。

作者がジョジョファンだということは随所にあらわれている。ただ、ファンの気持ちがそのまま作品に出すぎており、当初話題になった仗助の髪型の秘密をそのまま登場させている。この部分はなんとなくだが、冗長に感じてしまった。ジョジョの登場人物をそのまま動かすというのではなく、新しいキャラクターをメインにして物語が成り立っているために、ジョジョという雰囲気は大分薄れている。ジョジョの世界を借りた、まったく違った物語と言った方がいいのかもしれない。

メインのスタンドと、後半に突如登場する謎のスタンド。結局この謎のスタンドについては詳しく説明されていない。いったいどのような能力で、どのような特性があるのか、そして、ジョジョにつきまとう、スタンドを手に入れたきっかけというのも曖昧になっている。ジョジョっぽさで言えば、あきらかに過去に出版されたノベライズの方が優れているだろう。本作は乙一という作家が、ジョジョの世界を借りて、独自の物語を作ったというような感じだろうか。

ジョジョという元ネタがある限り、かなり厳しい目を向けられるだろう。作品自体は悪くないが、ジョジョという名前とファンの思いの強さが本作を良作とは呼べないものにする可能性がある。




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