天帝妖狐 乙一


2006.3.4 恐怖感よりも悲しさ 【天帝妖狐】

                     
■ヒトコト感想
「A MASKED BALL」と「天帝妖狐」どちらかというと、前者がミステリーで後者がホラーという感じだ。前者の方が僕好みで、ある程度内容は予想できるのだが、展開が面白い。際立った超常現象的なものを扱わなかったのもよいのかもしれないが、結局詳しい謎解きがされないのでそのへんはストレスがたまってしまった。後者はホラーな雰囲気はあるのだが、恐ろしいというよりも悲しさを感じた。読み進めていくうちに夜木の風貌を想像し、その内面とは相成れない外見への憐れみを感じた。ホラーというよりも悲しさの方が強い作品だ。

■ストーリー

とある町で行き倒れそうになっていた謎の青年・夜木。彼は顔中に包帯を巻き、素顔を決して見せなかったが、助けてくれた純朴な少女・杏子とだけは心を通わせるようになる。しかし、そんな夜木を凶暴な事件が襲い、ついにその呪われた素顔を暴かれる時が…。表題作ほか、学校のトイレの落書きが引き起こす恐怖を描く「A MASKED BALL」を収録

■感想
「A MASKED BALL」は2ちゃんねるの原点というべきか、トイレの落書きから様々な事件が起きている。顔を知らない相手とのコミュニケーションは難しい。文字だけでは相手にどのような印象を与えるかわからない。必要以上に相手を不愉快にしたり。本作にも登場するように全ての文字をカタカナで書くことで読みにくさもさることながらその恐怖感というものは並大抵のものではない。何故かそれだけで病的な異常性を感じてしまう。そんな壁の落書きにカタカナで殺害予告に近いものが書かれていたら、恐ろしくて二度と近づけないだろう。

恐怖感とミステリアスな雰囲気をうまく使って、ホラーミステリーとして成立させている。

「天帝妖狐」はこっくりさんで取引をした人物の悲劇が描かれている。夜木と杏子の家族のふれあい。人外な者になりかけている夜木に対して、慕ってくる子供。夜木が失ってしまった家族の温かみある生活。それと対比していくように、変化していく夜木の外見。不死の体を手に入れるのを条件に人間としての体だけでなく、魂まで奪われてしまう。夜木の悲しさが節々に現れており、ちょっと過激な暴力描写があるが、それすらも悲しさを伴っている。

表題になる程なので、こちらの方が力を入れているのか。ミステリーのように細かな説明は必要なく全てが不思議な現象として処理することができる。読むほうもそれを理解し、その不思議な雰囲気を楽しむことができる。夜木の話方が独特なのも一役かっているのだろう。



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