探偵伯爵と僕 


2008.3.21 意外に残酷な事件 【探偵伯爵と僕】

                     

評価:3

■ヒトコト感想
主人公は小学生。でありながら、鋭い洞察力と面白い会話を繰り広げる。小学生ながら、どこか知的に感じるのは、作者のいつもの雰囲気そのままだ。本作の特徴は、主人公が小学生ということと、事件が意外にショッキングだということだ。ところどころに感じる会話の面白さはいつもどおりであり、安心して読むことができる。ただ、ミステリー的な面白さというよりも、奇妙でほのぼのとした世界を楽しむという感じかもしれない。しかし、作品のトーンと事件の結末の残酷さはかなり乖離している。まさかこんな結末だとは思わなかった。めでたしめでたしではないのは確かなのだろう。そして、奇妙なのは相変わらずだ。

■ストーリー

夏休み直前、新太は公園で出会った、夏というのに黒いスーツ姿の探偵伯爵と友達になった。奇矯な言動をとるアールと名のる探偵に新太は興味津々だ。そんな新太の親友ハリィが夏祭りの夜に、その数日後には、さらに新太の親友ガマが行方不明に。彼らは新太とともに秘密基地を作った仲間だった。二つの事件に共通するのは残されたトランプ。そしてついに新太に忍びよる犯人の影。

■感想
小学生が主人公ということで、どこか伯爵に煙に巻かれるような雰囲気はある。伯爵が今までのシリーズでいうところの知的なスーパーマン扱いなのだろう。最初は昔から良くあるパターンの少年探偵ものかと思ったが、意外にも事件に巻き込まれ、それほど探偵役をこなさないパターンであった。その代わり、小学生ということでとても純粋で、逆に純粋すぎて大人では絶対に思いつかないようなするどい質問を伯爵に投げかける。このあたりが、本作の面白さなのだろう。

相変わらずネーミングがすばらしい。伯爵のアールというのもそうだが、秘書が良い。最終的なネタ晴らしであっても、その個性的な名前に対してまったく違和感を感じることがない。ある意味小説だからこそできる、名前で印象を操作できるということを存分に利用している。小学生の作文形式をとってはいるが、中身はしっかりとしたミステリーであり、読者を引き付けるポイントも抑えられている。ただ、ミステリーというには少しトリックが弱いような気がした。

謎の探偵伯爵と陰惨な事件。そして、犯人は誰なのか、どういった理由でこのような事件を起こしたのか。しっかりとそれらのヒントになりうる伏線は事前に用意されている。そして、それに気づきながらもまだ、どんなどんでん返しがあるかをワクワクしながら読み進めた。結局のところ、すんなりと終わってしまった事件。そして、それが思いのほか残酷であり、後味は良くないが、それも本作の特徴なのだろう。要はこの世は、ご都合主義的なハッピーエンドではないということだ。

シリーズ化になりえない作品だと思うが、本作で終わるにはもったいないキャラクターだと思った。



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