旅の途中で 


2007.8.13 文章に人柄が現れる 【旅の途中で】

                     

評価:3

■ヒトコト感想
文章に人柄が現れている。高倉健といえばスクリーンの中の姿しか知らない。実物がどのような人物であるのかなんてまったくわからない。しかし、この文章を読むと、清らかな心というか、一本芯の通った男でありながら、心の底からにじみ出る優しさのようなものを文章から感じ取ることができる。多くは撮影秘話や、旅先での思い出が語られているのだが、そこでの人との出会いやちょっとした出会いから、そのつながりを大事にする心。ある程度の有名人になると、おざなりになりがちな人との繋がりを、とても大事にする人なんだということが本作を読むとありありと感じることができる。

■ストーリー

人生って捨てたものじゃないな。女主人のもてなしの心意気に魅かれ、パリで毎日通った裏町のお茶屋さん。石垣島で偶然見かけ、拍手を送った運動会。学生時代に有り金はたいてとびこんだ遊郭で、帰り際に指輪をくれた遊女の優しさ…。異国の地で、ありふれた日常で、そしてスクリーンを通じて出会った人々や感動の数々。

■感想
「仕事には不真面目で」などと堂々と言えるのはすごい。そう言いながらも、本作の中では俳優としての気概を感じることができる。高倉健ほどの大物になれば、周りからちやほやされるだろうし、利害関係者は沢山いるだろう。嫌になるほどの人間関係の中で、これほど人との出会いを大切にし、一つ一つの言葉に重みを与えてくれる人を見たことがない。これぞまさしくスクリーンの中に存在する高倉健というイメージそのまま人物だった。

本作を読むことで、高倉健という人物に間違いはないということはわかる。しかし、意外な面としては、撮影後の宣伝活動を嫌がり、海外に逃亡してしまうというくだりだ。確かに俳優一筋の者が、バラエティなどにでて、宣伝するイメージはない。しかし、ごたごたを嫌がり逃亡したわりには、作品が封切られたあとの状況を気にするのも意外だった。男らしくもありながら、どこか気は弱く、実は繊細なのだということもわかった。

この高倉健と繋がりを持つ人々皆が手紙を書くというのも驚いた。この情報化社会では、手軽に相手とコミュニケーションをとることができる。あえて時代と逆行するように、手紙を書くということに、大きな意味があるのだろう。もちろんきちんと手書きで、もしかしたら筆ペンなんかで書かれているのかもしれない。高倉健が
和室に正座し、手紙を書く。まさにイメージそのままだが、それを飾ることなく、サラリと語るあたりが高倉健の自然体のなせる業だろう。

特に高倉健のファンというわけではない。しかし、読んだ人を優しい気持ちにさせ、人に対して思いやりの気持ちを思い起こさせる本作のパワーはすばらしい。なんだか、高倉健主演の映画を見てみたい気分になってきた。



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