主人公は僕だった


2007.6.2 ありえないファンタジー 【主人公は僕だった】

                     

評価:3

■ヒトコト感想
ありえないファンタジーだ。しかし、そのファンタジー具合を適度に和らげているのが神経質そうな作家だ。まさにこの作家がいることで、ありえないファンタジーがリアルなものに感じてしまう。世間一般が持つ作家のイメージどおり、どこか視線が定まらないような表情。これぞまさに作家のステレオタイプと思えてしょうがなかった。主人公のハロルドが必要以上に平凡なのも良い。そして、本作を変わった作品と印象付けるのはハロルドの行動の正確性をアピールするように登場する白い機械的な文字だ。これが見ているものに新しさを印象付けている。

■ストーリー

国税庁に勤めるハロルドは、ある日突然、自分にしか聞こえない女性の声に悩まされる。その声は、彼の行動をことごとく予告。じつはハロルドは小説の主人公で、声の主は作家だったという奇想天外な設定の物語だ。小説の最後に死ぬことが決まっているハロルドが、何とか結末を変えてもらおうと、作家に直談判に行く。状況はさらにややこしくなり…。

■感想
普通では到底ありえないマンガ的なファンタジーだが、そう思わせない力がある。時間に正確で融通のきかないハロルド。彼の行動が小説家の書いた物語の一部だと気づいたとき、ある男に相談に行く。実はこの男が真面目そうだが、普通ではない。当たり前に考えても、ハロルドが作家の作品の一部だと考えるはずがない。しかし、この男はあっさりとその結論に達する。このあたりは曖昧にされてはいるが、なぜか気にならないから不思議だ。

苦みばしった気難しい作家。そしてハロルドのロマンス。物語は二つの流れからなっており、それがちょうど繋がるとき、感動の結末が…。なんて思っていたが、謎が解けるまでのテンションと謎が解けてからのテンションは明らかに違っている。ハロルドがふっ切れて自分の好き勝手な行動をとり始める。そして、作家は人の命と自分の作品を天秤にかける。なんだか目的が何かわからなくなってしまった。

最後まで結局何がしたいのか、ハロルドは生きたい。作家は作品を書き、最高傑作を書き上げたい。しまいにはハロルドまで最高傑作に協力するような行動までとり始める。ハロルドの生きたいという気持ちがだんだんと曖昧になってきているような気がした。

主人公は僕だったというタイトルどおり、本作の主人公はまぎれもなくハロルドなのだが…、目的がはっきりしないのと、途中から作家が主役に躍り出ている。ハロルドの行動の正確性をあらわす
白い機械的な文字だけが本作の新しさの証明かもしれない。



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