少年たちの密室


2006.2.20 少年、少女達の心理 【少年たちの密室】

                     
■ヒトコト感想
終始暗い雰囲気が漂っている作品。その内容の重さもさることながら少年少女たちの的確な心理描写は驚かされる。特にいじめに対する微妙な立場の者の心理など見事としか言いようがない。強制的に閉じ込められた密室での殺人を扱っているのだが、特別驚くようなトリックがあるわけではなく最後の真犯人を追い詰める部分でも特に目新しさは感じない。しかし、そのリアリティあふれる少年少女と教師の心理描写がミステリーの質を上げているような気がする。作品自体は終始暗い内容となっている。

■ストーリー

東海地震で倒壊したマンションの地下駐車場に閉じ込められた六人の高校生と担任教師。暗闇の中、少年の一人が瓦礫で頭を打たれて死亡する。事故か、それとも殺人か?殺人なら、全く光のない状況で一撃で殺すことがなぜ可能だったのか?

■感想
中部地震で教師と少年少女たちが閉じ込められる。暗闇の中少ない水と光源を求めて争いが始まる。このあたりはまあ割りとありきたりなのかもしれない。そしてそこで起こった殺人が果たして事故なのかどうか・・・。これも別段新しいものを感じない。しかし、それを推理する少年が相手の心理の奥底までを考え、的確に犯人を突き止めていく部分はすばらしいと思った。

閉じ込められた地下駐車場での不良達や教師との駆け引き。このへんを読んでいると少年が正義で不良達が悪というような図式ができあがっている。そうかと思うと悪役としてのターゲットは教師に代わったりと画一的に善と悪がはっきりしているようで、実はしていない。本作を読んで最初に思ったのは、主人公の少年が常に正しいと思っていることも、客観的に見ると非常に危ういものだという印象を受けた。

いじめにあう人物とそれを傍観する人物。昨今のいじめ問題にも言及しており、その心理分析はものすごく的確なものだ。もしかしたら作者はいじめられるか、もしくはそれに近いような経験をしてきたのではないだろうか。社会派ともとれなくもないが、何か訴えているというわけではなく、その社会問題をうまく作品に絡めているような感じだ。

物語は終始重い雰囲気がつづいており、最終的には誰も幸せになっていないとても辛い作品だ。ミステリー的には優れていると思うが、暗い作品が苦手な人にはお勧めできない。



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