シェエラザード 下 


2007.11.20 戦時中の悲劇 【シェエラザード 下】

                     

評価:3

■ヒトコト感想
下巻では沈没船引き上げをドラマチックに描いてくれるものかと思っていた。しかし、物語は、弥勒丸がどのような経緯で沈没までいたったのか、それのみ語られている。日本を裏で操るフィクサーたちを引っ張り出したなぞの中国人。その正体が明らかになると共に、物語の確信も明らかになってくる。戦時中の異常な心理状態であれば、何が起こっても不思議ではない。ある程度実話にもとづいた本作。これほどの悲劇が実際に起きていたと思うと、やりきれない気持ちになる。感動というよりは、衝撃の方が大きいのかもしれない。

■ストーリー

弥勒丸引き揚げ話をめぐって船の調査を開始した、かつての恋人たち。謎の老人は50余年の沈黙を破り、悲劇の真相を語り始めた。私たち日本人が戦後の平和と繁栄のうちに葬り去った真実が、次第に明るみに出る。美しく、物悲しい「シェエラザード」の調べとともに蘇る、戦後半世紀にわたる大叙事詩、最高潮へ。

■感想
戦時中の異常状態、厳しい上下関係に、圧倒的な情報不足。そんな中での、目的がはっきりしないまま、弥勒丸に乗り込む船員たち。さまざまな人々の目を通して、弥勒丸を語っている。奇跡的に生き残った人や、素性を隠して生きる人。弥勒丸というものがどれだけすばらしく、そして、最高の乗組員たちに囲まれていたということまで、強調して語られている。そうなってくると、当然、最後には感動が待っている。

上巻を読んだ限りでは、引き上げ困難な弥勒丸を引き上げ、莫大な金塊があるのか、ないのか。その権利をめぐる争いになることを予想していた。しかし、物語は意外なほどストレートに弥勒丸が沈没するまでを描いている。結局、メインであると思っていた、沈没船引き上げは一切語られていない。誤爆という建前の影に隠れた真実。軍の上層部だけで決められた残酷な作戦を悔いる人々。なんだか、悔いる場面が妙に印象に残った。

沈没目前、覚悟を決めた船員たちの心意気は、悲しいはずだが、どこか勇猛果敢で男らしく感じてしまった。
日本的侍魂を持った人々は、どのような行動をとるのか。ラストはさながらタイタニックのように、沈没する船と心中するような気持ちだったのだろうか。

予想とは違った展開だが、これはこれで良いと思った。



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