沈まぬ太陽5 会長室篇 下


2006.9.6 これがすべての真実 【沈まぬ太陽5 会長室篇 下】

                     
■ヒトコト感想
やはりこの作品はすべて事実に基づいて描かれているのだと改めて認識した。多少の小説的な演出があるにせよ、最後の結末が何も解決しないまま終わっているのを読むと、今なお根強く問題が残っているということを認識させられる。改革のために送り込まれた国見会長が最後まで改革らしい改革をすることなく更迭されるあたり、まさに現実とリンクしているといっても過言ではないだろう。これほど腐った企業が現実に存在していたことの驚き。そして最近でも航空機の故障が多発し、問題視されていたことを考えると、現在でも様々な問題が残っているような気がしてならない。

■ストーリー

会長室の調査により、次々と明るみに出る不正と乱脈。国民航空は、いまや人の貌をした魑魅魍魎に食いつくされつつあった。会長の国見と恩地はひるまず闘いをつづけるが、政・官・財が癒着する利権の闇は、あまりに深く巧妙に張りめぐらされていた。不正疑惑は閣議決定により闇に葬られ、国見は突如更迭される―。

■感想
政治家や官僚との当たり前のような癒着。本作を読んでいると賄賂や横領が普通に行われているので感覚がマヒしているが、普通の感覚であれば、ありえないようなことばかりだ。本作を読むとすべてのものが金で買えてしまうのではないかという錯覚さえ覚えてしまう。本作の登場人物達が自分の命を賭けてでも手に入れようとするものは、結局はすべて金に行き着いている。大きな金を手に入れるために多少の出費はいとわない。その金額がとてつもなくでかいだけに強烈な印象を残している。

本作では国民航空の組合問題というよりも経営的な問題に焦点が当てられている。詳しくはわからないが、恐らく現実にも取りざたされたことが本作に反映されているのだろう。ここまで大きな問題がありながら、今なおナショナルフラッグキャリアとして営業していることに驚きを感じてしまう。本作のように多数の人が読む作品で、ある意味
一企業を糾弾したような形なのだが、それすらもびくともしないのだろう。

最後のあとがきを読むと、全てが真実に沿って描かれているというのがわかる。綿密な取材の上に成り立っているということは遺族のエピソードなどもそのまま真実が語られているのだろう。そう考えると、途中でやけにうそ臭く、所詮フィクションなんだと思っていたことが全て真実だということに驚かされた。

結末も小説的に全ての悪が一掃され、国見や恩地の苦労が報われるのが理想的な終わり方だろう。しかし本作は真実を元にしているのでそうはならない。



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