失踪HOLIDAY 乙一


2006.7.30 あとがきが一番面白い 【失踪HOLIDAY】

                     
■ヒトコト感想
二つの短編が収録されている。どちらもホラーではなく、どちらかというとちょっとしたミステリーっぽくなっている。メインはあくまでもミステリーではなくホンワカしたせつない話だ。しかし二作品とも心に残る作品かというとそうではない。軽く読めてしまうかわりに、読み終わってから一週間もすれば内容を忘れてしまうような、そんな感じかもしれない。乙一の作品の中にはせつなさの中にも強烈なインパクトを持つものがあったが、本作はそうではないようだ。電車の中で軽く読むにはちょうど良い。

■ストーリー

14歳の冬休み、わたしはいなくなった―。大金持ちのひとり娘ナオはママハハとの大喧嘩のすえ、衝動的に家出!その失踪先は…となりの建物!こっそりと家族の大騒ぎを監視していたナオだったが、事態は思わぬ方向に転がって…!?心からやすらげる場所を求める果敢で無敵な女の子の物語。その他うまく生きられない「僕」とやさしい幽霊の切ない一瞬、「しあわせは子猫のかたち」を収録。

■感想
「しあわせは子猫のかたち」では心優しい幽霊との奇妙な生活。乙一の作品を読んで思ったのは人間的に社交的で明るくて友達が沢山いるというような登場人物が少ない。ほとんど全てが暗く、自分の世界にひきこもり一人でいることに喜びを感じるような人間ばかりだ。本作の主人公もそんな感じで、作者の趣味が色濃くでている。全体的にはせつなくて悲しい物語のはずだが、被害者が被害者意識を持たなければ全体の雰囲気もどこか明るくなる、そんな感じかもしれない。なんとなく”暗いところで待ち合わせ”にかぶるような気もした。

タイトルにもなっている「失踪HOLIDAY」はありがちなミステリーっぽくなってはいるが中身は結局、使用人とわがままお嬢様の心のふれあいが描かれている。特にせつなくなるということもないが、全体の雰囲気がどこかのんびりとした印象を受けた。二転三転したり最後にあっと驚くようなことはないが、それなりのミステリーになっている。

二つの作品の印象よりも最後のあとがきが一番インパクトがあったかもしれない。ふざけながら書かれた文章のようだが作者の丁寧な文章と作品とは似ても似つかないようなキャラクターを垣間見ることができ、乙一ファンにはたまらないのかもしれない。

あとがきが一番インパクトがあるという風変わりな作品だが、軽く読むには申し分ない作品だ。



おしらせ

感想は下記メールアドレスへ
(*を@に変換)
pakusaou*yahoo.co.jp