真相 横山秀夫


2007.6.4 暴かれるべくして暴かれた 【真相】

                     

■ヒトコト感想
事件には動機、犯行、逮捕というような一連の流れがある。その中でミステリーの題材となりうるのは動機だったり犯行を暴き逮捕する過程を描き、最後にすべてを解決し逮捕に至る。その中で真相というのは今までも題材としてとりあげられていたのだろう。しかし、本作のようにその真相に焦点を当てた短編だけを集めたのはかなり珍しい。事件は解決し、その後の生活がメインとなる。すべてがすべて事件を起こしたものは、何かしら心にわだかまりを持ち、決してぐっすり眠ることがないままその後の人生を過ごしている。暴かれるべくして暴かれたものもあれば、そっとしておくべきものもある。なかなか考えさせられる作品だ。

■ストーリー

犯人逮捕は事件の終わりではない。そこから始まるもうひとつのドラマがある。―息子を殺された男が、犯人の自供によって知る息子の別の顔「真相」、選挙に出馬した男の、絶対に当選しなければならない理由「18番ホール」など、事件の奥に隠された個人対個人の物語を5編収録。人間の心理・心情を鋭く描いた傑作短編集。

■感想
事件の真相を暴くというわけではない。ただ普通の生活から、ふとしたきっかけで事件の真相にたどり着く。たどり着いた先が天国か地獄かわからない。しかし人は真相が目の前にあるとわかると、その中にどんな結末が待っていようと開けないわけにはいかない。真相を求める人の心理をたくみに突いた作品だ。

殺された息子の別の顔を知ることになった「真相」。犯人が逮捕されず、そのまま時効を迎えていれば真相を知らずにすみ、わだかまりはあるにせよ、今を生きる人々は平穏に暮らしていたはずだ。ふとしたきっかけでどのようにでも変化する現代。真相を知ることがすべてではないと思い起こさせる作品だ。

「真相」とは少し趣が変わるが、「18番ホール」は良くある犯罪隠匿物なのだが、そこにいたるまでの過程が優れている。選挙に出馬した男のあせり、そして事件をやみに葬るための陰謀。ストレスと緊張で半ばおかしくなり、仲間を信じることができなくなる。そして、すべてに対して疑心暗鬼になり、次第に壊れていく。選挙での心理状態や事件の真相に関わるストレス。男が感じる強烈なストレスが作品からにじみ出ているようでもあった。

今までの横山作品とは一味違った作品になっている。




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