死にぞこないの青 乙一


2006.7.23 教師を含めた現代のイジメ 【死にぞこないの青】

                     
■ヒトコト感想
どこのクラスにも一人か二人はかならずいた客観的に見ると駄目な子供。学校以外の面は何も知らないのにクラスでの扱いは駄目な奴というレッテルを貼られている。ちょうどそれの極端なケースが本作のマサオなのだろう。マサオは同級生にいじめられても先生から理不尽にしかられても常に気にしないようにした。それらがコップにたまる水のようにだんだんと溜まっていきある時を境に水が零れ落ちるように自分が制御できなくなる。もしかしたらこんな気持ちの人は多いのかもしれない。ストレス社会を如実にあらわしているような作品だ。

■ストーリー

飼育係になりたいがために嘘をついてしまったマサオは、大好きだった羽田先生から嫌われてしまう。先生は、他の誰かが宿題を忘れてきたり授業中騒いでいても、全部マサオのせいにするようになった。クラスメイトまでもがマサオいじめに興じるある日、彼の前に「死にぞこない」の男の子が現われた。

■感想
一昔前の単純ないじめとは違う。先生も巻き込んだいじめとは違う、もっと陰湿な何かかもしれない。こんな教師が存在するのかという思いと、もしかしたらありえるかもしれないという思い。教師が自分を守るため、クラスの子供達に嫌われないためにスケープゴートにする子供を選ぶ。それがマサオであっただけで別に他の誰かでもよかったのかもしれない。

作者と年代的に近いからだろうか、親に心配をかけたくない子供の心理や外面がよいみんなに優しい良い先生のふりをする教師など。ものすごくリアリティにあふれていると感じた。今思えばもしかしたら同じような教師はいたのかもしれない。自分がいじめられる立場ではなかったから気づかなかっただけで、マサオと同じような苦悩を味わった子供はもしかしたらいたのかもしれない。

ホラーでもなくミステリーでもない。子供の復讐劇といえなくもないが、それも違うような気がした。本作を読み終わって強烈に印象に残っているのは、クラス中の全ての負の部分を背負わされることになったマサオとそれを躊躇せず実行した教師。教師の異常さばかりに目がいきがちだが、そんな異常な状態にもまったく気づかない子供達。自分だけがよければいいやというクラスの子供独特の身勝手さというものが作品を通して感じられた。




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