世紀末の隣人 重松清


2007.4.10 印象的ナ過去の出来事 【世紀末の隣人】

                     
■ヒトコト感想
印象深い出来事を作者の言葉で作者の主観をこめて書かれている。完全な虚構ではなく、もちろんノンフィクションでもない。作者が想像する事件の裏側を、取材から導き出している。今読むと、すでにどれも過去の事件となってはいるが、それでも印象深いものであるのにはかわりない。とても客観的とはいえないが、事件を思い出しながらある一つの見解として読むには十分に面白く、物語性が追加されている。ただし、題材のチョイスに統一性がないのが気になった。世間で話題になった大事件を扱ったかと思えば、ごく一部の人にしかわからない事件まで。これも本作の特徴かもしれない。

■ストーリー

池袋の通り魔、音羽の幼女殺人、少女監禁、カレー事件、リストラ、田舎移住、ニュータウンの三十年…。世紀末の一年の事件は、二十一世紀のいまも「現役」。遠くて近い隣人たちのドラマに寄り道しつつ迫ってみると、そこにはあなたとよく似た顔が―。

■感想
リアルタイムに事件を見て、そしてその時自分がいったいどんな感想をもったのか。かなり前の事件なのであまり思い出すことはできないが、世間で報道されているほど衝撃は受けなかった。ただ、日常に起こる事件の一つとして聞き流していたのだろう。それを作者は取材し、多少の主観がこめられているとはいえ物語的な要素を含めて読ませようとしている。世間が煽るイメージとは意図的に距離をおくように、ありきたりな解説というわけではない。

作者の作品には本作の事件に近いようなものも沢山ある。虚構として似たような主人公を生み出している作者がいったいどんな思いで事件を見ているのか。当事者しかわからない部分を作者独自の方式で分析している。特に陰惨な事件であればあるほど興味深い解説をしている。ただ、選んだ事件に統一性がないのが気になった。世間的に大きく話題になったものもあれば、まったく知る人ぞ知るという出来事さえある。あまりにその落差が激しいので、ちょっと違和感を感じてしまった。もしかしたら作者の中ではすべてが同列なのかもしれないが。

すでに五年ほど経過した今、本作を読むと事件は解決していたり、世の中は大きく変わっていたり。これが本作のような時事ものの悲しさかもしれない。その時代では鋭い分析かもしれないが、時間が経つと古臭く、滑稽に見えてしまう。このことは作者は十分理解していると思うが、あえてそのことに挑戦しているようだ。確か作中にもそんな表現があったような……。

本作を今読まずに、リアルタイムで読んだらまた違った感想を持っていただろう。




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