ラッシュライフ 伊坂幸太郎


2006.7.9 複雑に絡み合うエピソード 【ラッシュライフ】

                     
■ヒトコト感想
さまざまなエピソードが一見無関係のようにみえて実は繋がりがある。時系列に進んでいるわけではないのでエピソード間の時間関係が曖昧であり、そこが本作の肝なのかもしれない。そのまま何の補足もなく終わると、キッチリ頭の中を整理しないと結局何だったのか分からなくなる危険性がある。しかし本作は結末間近にエピソードの時間軸を明確にしているので混乱することなく最後まで突っ走ることができた。登場人物の中には不幸な結果になった者もいるはずなのに、あるひとつのエピソードが幸運な結果に終わったことで読後感は爽やかで楽しい印象が残っているから不思議だ。

■ストーリー

泥棒を生業とする男は新たなカモを物色する。父に自殺された青年は神に憧れる。女性カウンセラーは不倫相手との再婚を企む。職を失い家族に見捨てられた男は野良犬を拾う。幕間には歩くバラバラ死体登場――。並走する四つの物語、交錯する十以上の人生、その果てに待つ意外な未来。不思議な人物、機知に富む会話、先の読めない展開。巧緻な騙し絵のごとき現代の寓話の幕が、今あがる。

■感想
映画でよくあるパターンなのかもしれないが、多数のエピソードが一つ一つ繋がっていく。それも時系列どおりではなく複雑に絡み合っている。説明するのは簡単だが、これを読者に対していかに混乱させることなく全ての意味合いを理解させるかは相当大変なことだろう。一歩間違えるとバラバラなエピソードがとりあえず繋がったが何がどうなっているのかまったく分からないというような状態になりかねない。非常に危険な諸刃の剣だと思った。

エピソードの時系列が行ったり来たりするのを明確にするために一人のキーになる人物がでてくる。全てのエピソードに登場し、そして最終的には全てのエピソードを取りまとめるような役割をしている。これが非常に効果的で、ある程度終りが見えてきた段階でキッチリと実はこういう時系列でしたと示されることで、おぼろげながら理解していたことに自信を持って読み進めることができ、最後まで一気にノンストップで読んでしまった。

構成はすばらしく、相変わらずこの作者独特の会話で楽しませるというか、言葉のやりとりが印象に残っている。しかしそれぞれのエピソードの中で興味深いものもあれば、たいして面白くもないと感じるようなものまで波があったのが気になった。なんとなく無理やりミステリー風なトリックを付け加えているようなエピソードもあったのだがその部分には惹かれるものはなかった。

ミステリーというよりも一部の魅力的な登場人物達の会話が面白い。何気ない会話のシーンばかりが心に残っている。不自然なトリックやちょっと無理があるようなエピソード、結局謎解きを放棄されたようなエピソードが気になったりといろいろあるが、全ての帳尻を合わすように、最後に全てが良い方向に向かっているような気がした。終りよければすべてよし・・・なのだろう。




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