臨場 横山秀夫


2008.1.23 特別な「眼」をもった男 【臨場】

                     
■ヒトコト感想
硬派だ。前から作者の作品は硬派だと思っていたが、本作はその極みかもしれない。余計なエピソードは抜きにして、真正面から検視をテーマとしている。死体がそこに存在すれば自殺なのか他殺なのか判断するのは検視官の目にかかっている。終身検視官という通り名を持つ倉石。人間味をまったく感じないような冷酷非道で、職務に対してのみ、自分の存在意義を示す男。そんなイメージをうえつけられた。たとえ上司であっても、ため口をきき、自分の意見を主張する。キャラクターとしては、なかなか読者に受け入れられないと思うが、作品全体の雰囲気が硬派なだけに、十分作品にマッチしている。

■ストーリー

‘終身検視官’、死者の人生を救えるか--。辛辣な物言いで一匹狼を貫く組織の異物、倉石義男。その死体に食らいつくような貪欲かつ鋭利な「検視眼」ゆえに、彼には‘終身検視官’なる異名が与えられていた。誰か一人が特別な発見を連発することなどありえない事件現場で、倉石の異質な「眼」が見抜くものとは……。

■感想
検視官が特殊で選ばれた人間だけがなるわけではなく、普通の刑事がその職につくということにまず驚いた。昨日まで事件解決に足を棒にして歩き回っていた刑事が、ある日突然検視官となる。事件現場で「眼」を鍛えることは、刑事として必要なことなのだろう。その、特殊な「眼」を極限にまで鍛え、圧倒的な分析力をもつ倉石が、他の刑事たちから一目置かれるのは当然のことだろう。事件解決にとって一番大事な初動捜査を間違いなく進めるためにも、検視官はとても重要な立場にある。倉石はその頂点ともいえる立場なのだろう。

倉石が解決する事件の前には、狂言回し役がかならず存在する。それは一之瀬であったり、婦警であったり。それら狂言回しの存在があってこそ、倉石のすごさが際立つ。また、冷酷非道な物言いと、誰にもこびない言葉遣いから、厳しい人のように思わせておきながら、ふとしたやさしさを見せる。まるで、一昔前のハードボイルド小説の主人公のようだ。

組織の中の異物であり、上からは疎まれながら、下の世代からは圧倒的な支持を受ける。これほど素晴らしく理想的な立場の人間はいないだろう。検視という重箱の隅をつつくような仕事でありながら、事件解決にはとても重要な部分である。本作の中でもトリック的にはたいしたことがなくとも、それを検視から事件解決に導くというのが新しく、そして、衝撃を受ける部分でもある。ただ、検視の性質上地味なのは否めない。ミステリー的に「犯人はお前だ!」というような山場が少ないのもそう思わせる原因なのかもしれない。

横山作品は硬派なものが多いが、その中でも1,2を争うほど硬派だ。




おしらせ

感想は下記メールアドレスへ
(*を@に変換)
pakusaou*yahoo.co.jp