烈火の月 


2007.6.6 暴力衝動に溢れる刑事 【烈火の月】

                     

評価:3

■ヒトコト感想
「その男、凶暴につき」に若干変化を加え、小説にしたような本作。冒頭からホームレス狩りをしていた少年たちを自分がホームレスのフリをして襲わせ、そして返り討ちにする。その容赦ないまでの暴力に引き付けられるものがあった。序盤では暴力が快感に変わり、それのみに生きる人物かと思ったが後半は一転して町の膿を搾り出す、ちょっと無鉄砲で手が早い正義の刑事になってしまっている。序盤のような、ただ合法的に暴力がふるえるという理由で刑事になったような、そんなキャラクターを期待していた。

■ストーリー

日本に溜まった悪を叩くことで輝きを増す男、我妻諒介は「微笑んだ次の瞬間、凶暴になれる」と恐れられる愛高署“最凶”の42歳の刑事。アクアライン開通によって人口が増加し、麻薬、青少年犯罪、汚職などあらゆる犯罪が集結しつつある千葉県湾岸の架空都市・愛高を舞台に、我妻と“女マトリ”烏丸瑛子が麻薬密輸業者に立ち向かう刑事アクション小説。

■感想
前半と後半では我妻の印象がずいぶん違う。前半ではまさに暴力だけが楽しみで、他の何にも変えられない、かけがえの無いモノのように思えるほどの異常な人物をイメージしていた。それらしい描写もあり、映画さながらに武が無表情で暴力をふるう、そんな絵を思い描いていた。しかし、後半からは一転して仲間を思い、世話になった人物を気にかけ、薬漬けにされた仲間の敵討ちに向かう。なんだか後半だけ読むとありきたりな正義の刑事のようにも思えてきた。

事件の黒幕、町の有力者、そして県警と愛高署の権力者。さまざまな立場の人物が登場し、それぞれの利益のために闇でうごめいている。その中で本作のキーになると思っていた、キャリア組の署長がほとんど活躍しなかった。汚職にまみれた中で新任署長がどこで覚醒するか、それも楽しみの一つであったが、ほとんどそのようなことはなかった。

我妻の暴力衝動が後半にも登場するが、それは悪に対しての暴力だった。理不尽なまでに警察権力を使って、自分の欲望のおもむくままに行動する。そんな異常な人物を想像していただけに、わりとまともだということが一種の意外性だったのかもしれない。

いつの間にかテーマが街にはびこる悪を一掃するということに変わっている。仲間がやられ、恩人が死んだという事実からそのようになったと思えなくもないが、序盤の必要以上に少年たちを痛めつける我妻から正義の我妻に変わるには足りないような気がした。

「この男、凶暴につき」は見たことが無い。しかし、本作をきっかけに少し見たくなったのは確かだ。



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