ラッフルズホテル 


 2008.7.14  あちこちに漂うバブリーな香り 【ラッフルズホテル】  HOME

                     

評価:3

■ヒトコト感想
裕福で何不自由なく暮らす男が、愛人の異常な行動に恐怖し、そこから逃げ出そうとする。簡単に言ってしまえばそんな物語だ。この手の作品を作者はいくつか書いている。そのどれかに似通ってはいるが、決定的に異なっている。それぞれの視点から描かれ、その時その人物が何を思っていたのか。そして、この行動にはどんな意味があったのか。意味不明な言葉の奥には、しっかりとした説明付けがされていたり、いなかったり…。一般人では想像できない世界の話だが、得体のしれない怖さというものは十分に伝わってくる。表面的には何の問題もない、綺麗な女優であっても、心の奥底では何を考えているかわからない。それは何も女優に限ったことではないだろう。

■ストーリー

不思議な感性をもつ謎めいた女優、萌子とベトナム戦争の影をひきずるカメラマン狩谷。「お前はジャングルに咲く野生の蘭のようだ」。狩谷のことばが萌子の胸に響く。すべてをすてた萌子の愛の追跡。シンガポールの夜に煌めく、純粋な愛。

■感想
設定としての戦場カメラマンというのに、何か大きな意味があるのだろうか。戦場カメラマンだからとった行動なのか?それとも、何か別の意味があったのか。そのあたりが読み取れなかったが、相変わらず主役の男はビジネスの世界では大成功をおさめ、金銭的に恵まれた生活をしている。ある程度金を自由に使える設定でなければ、本作が成り立たないからだろう。貧乏人であれば、女優を愛人にすることもできないし、シンガポールに移住するとも言えないからだ。このあたりが、無性にバブルの香りを感じてしまう。

異常な性格をあらわにし始める女優。そして、そこから逃げ出す男。表面的には正常であり、第三者がいる場所では真っ当に振舞うような異常者ほどやっかいなものはない。いつ自分が寝首を刈られるかわからない状態での緊張感。意味不明な発言をするたびに、その恐ろしさは読者にまでしっかりと伝わってくる。そのまま意味不明な異常者として、女をどこか意識の外に飛ばしてしまえればいいのだが、本作では、その女優目線で物語が語られたりもする。正直言うとまったく共感はできないが、何故かほんの少しだけ、この女優に生々しい人間性のようなものを感じてしまった。

映画版を元に本作が作られたようだが、確かに、女優は藤谷美和子と言われればそんな気がしてきた。異常性という意味ではなく、何を考えているのかわからず、どの場面でどんな発言をするのかまったく想像がつかないといった方がいいのかもしれない。これが異常性ととるのか、もしくわ、個性ととるのか。真実の愛を求めるうえで余計なものを排除しようとする強い気持ちが、異常性と暴走を生んだのだろうか。現実的ではないのだが、隠れた部分でこの女優と同じ性向を持った女性は多いのかもしれない。

リアルではないが、恐ろしさは感じる作品だ。



おしらせ

感想は下記メールアドレスへ
(*を@に変換)
*yahoo.co.jp