ピアッシング 


2008.3.7 決して感情移入できない世界 【ピアッシング】

                     

評価:3

■ヒトコト感想
この独特の文章形式に慣れるというか、気がつくのに時間がかかった。男と女の人称が段落ごとに変わっている。ある時は謎の殺人衝動に苦しむ男、そしてあるときは強烈な自殺願望に襲われる女。この二つの人格がいったりきたりする文章形式はちょっと驚いた。しかし、それに慣れてくると、殺人衝動と自殺願望がよく似通ったもので、お互いがお互いを偶然のタイミングで勘違いし、そこから物語は奇妙な方向へと流れていく。この、相手の本心を勝手に勘違いし、それぞれの思惑どおりにことを進めるというのは良くあるのかもしれないが、殺し殺されの関係で起こるのは少し意外だった。ホラーというよりもちょっとした舞台を見ているような感じか。

■ストーリー

惨劇は、殺人衝動を持つ男と、自殺願望を持つ女が出会った夜に始まる。誰の心にも潜む、もうひとりの自分が引き起こす壮絶なサイコスリラー。ニードルが乳首を貫くとき、美と勇気は現れる。

■感想
どちらも正常ではない。異常な者同士が、異常な行動を起こす。はっきりいえば、本作の登場人物たちの気持ちはまったく理解できない。幼児期のトラウマによって現在の性格が形作られたというような流れになってはいるが、まったく共感はできない。殺人衝動であったり、自殺願望であったり、完全にドラマというか自分の実生活とは別なものとして読むしかなかった。まったく別物だけに、感情移入はできないが、怖いもの見たさ的な思いはでてきた。

異常な行動と共に、なぜか妙に綿密な部分があるのも本作の特徴だ。殺人の計画を立て、神経質なほど徹底的に証拠を残さないように注意する男。やけに現実的でありながら、その行動原理はとても非現実的である。方や、自殺願望の女はその異常性は読んでいて鳥肌がたってきた。現実にこんな女が身近にいたら、かなり恐ろしく、一切近づきたくないとすら思えてくる。そんな異常な二人だが些細な勘違いから行動を共にすることとなる。このあたりは、計算されつくしているのだろうが、うまいと思った。

サイコスリラーという触れ込みは間違いではないが、読後感としてはホラーというよりも、悲しい二人の物語のように感じてしまった。結局お互いの目的は果たせないまま、なんだかわからないうちに終わっている。誰も目的を果たしていない救いようのない終わり方かもしれないが、なんだかほんの少しほっとした。

読む人によっては嫌悪感を抱いたり、納得できなかったり、読みにくく感じるかもしれない。内容は衝撃的だが、読み終わるとあっさりと頭の中から消失してしまうような作品だろう。



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