オーデュボンの祈り 


2006.9.20 過不足ない終わり方 【オーデュボンの祈り】

                     

評価:3

■ヒトコト感想
普通ならばありえないようなキャラクター達が生活する日常。ありえないような登場人物達に対して不自然な印象を一切感じず、ただ自然に物語の中に入り込んでいる。個性豊か過ぎるキャラクター達がおりなす行動一つ一つに何か重大な意味があるように感じさせ、いつの間にかこの世界にどっぷりと読者を浸からせてしまう。人を裁く謎の男、桜であったり、しゃべる案山子だったり。不思議な世界と現実の世界の狭間にいるようなそんな気分にさせられる。最後には個性的なキャラクター達全てが意味を持っていたのだと証明されるように、キッチリと過不足なく終わっている。そんなすっきりとした印象を持たせる作品だ。

■ストーリー

コンビニ強盗に失敗した伊藤は、警察に追われる途中で意識を失い、見知らぬ島で目を覚ます。仙台沖に浮かぶその島は150年もの間、外部との交流を持たない孤島だという。そこで人間たちに崇拝されているのは、言葉を話し、未来を予知するというカカシ「優午」だった。しかしある夜、何者かによって優午が「殺害」される。なぜカカシは、自分の死を予測できなかったのか。「オーデュボンの話を聞きなさい」という優午からの最後のメッセージを手掛かりに、伊藤は、その死の真相に迫っていく。

■感想
しゃべる案山子を怪しみながらも信じてしまう伊藤のように、読者としても自然とその不思議な世界の住人になってしまっている。島の外が現実ならば島の中は幻想の世界。島だけに存在するルールに沿って生活する人々。百年以上鎖国が続いていたと言いながらも頭に思い浮かぶイメージは現実と大差ない世界。しかしそこに生活する人々の不思議な雰囲気を感じるには十分すぎるような様々な出来事。何かがあると思わせる展開としては申し分ない。

島の中で生活する人々に異質なものとして入り込んだ伊藤の心はまさに読者と同じ気持ちなのだろう。不思議な世界に戸惑いながらもそれを受け入れ。最後にはそれが自然なこととして感じてしまう。何の理由も説明されず、ただそうしたいからそうするだけだという現代では到底受け入れられないようなことを理由に展開される出来事。その理不尽さも受け入れざるえない雰囲気が物語全体に作られているのだろう。

ある1つの殺人?が発生し、それを解決するというミステリーな流れにはなっているが、それは一種のおまけだ。本作にはその不思議な流れの中で数々の個性的なキャラクターが引き起こす伏線をどのようにまとめていくか。中には最後まで理由を説明されないものもいくつかあるが、それらが気にならないほど
最後は見事なまでにまとめ上げている。この謎の島に足りない物がいったい何なのか。それは抽象的なものだろうという予想に反して、やけに現実的なものだったのにも驚いた。

終わり方でその作品の良し悪しが変ってくるという顕著な例なのかもしれない。



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