2008.4.11 恐怖は永遠に続く 【ノーカントリー】
評価:3
■ヒトコト感想
評判どおりの素晴らしさかもしれない。偶然大金を手に入れ、殺し屋から逃げるルウェリン。このルウェリンの男くささもさることながら、なんといっても本作はシガーの異常さにつきる。淡々と話す脈略のない言葉も恐ろしいが、なんと言っても一番インパクトがあるのは、空気銃だろう。ゆっくりと歩み寄り、ボンベを緩める音はすばらしくインパクトがある。本作の主役はエド・トム・ベルのはずだが、それよりも、この二人の方が明らかに印象が強い。途中、ライバル的殺し屋が登場するあたり、物語の盛り上げ役となってはいるが…。やはりシガーのインパクトには負ける。淡々と流れる日常に突如訪れる恐怖としては、これほど恐ろしいものはない。
■ストーリー
メキシコ国境に近い砂漠でハンティング中に、偶然、死体の山に出くわしたルウェリン・モスは、大量のヘロインと現金200万ドルが残されているのを見つける。危険を承知で大金を奪ったモスに、すぐさま追っ手がかかる。必死の逃亡を図るモスを確実に追い詰めて行くのは非情の殺し屋アントン・シガー。そしてもう一人、厄介な事件に巻き込まれたモスを救うべく老保安官エド・トム・ベルが追跡を始めるのだった。
■感想
人生の運、不運を感じさせられる作品。運がよければ、大金を手に入れ悠々自適な生活が送れたはずのルウェリン。シガーに出会わなければ、死なずにすんだ人々。ちょっとしたことでこうも大きく人生が変わっていくのか。圧倒的な存在感を示す異常な殺し屋シガー。逃げるルウェリン。事件を捜査する老保安官。誰に一番感情移入したかというと、間違いなくルウェリンだ。シガーへの恐怖感はもちろんのこと、八方ふさがりで、どうしてよいのかわからない緊迫感。誰にも頼れず、一人、ビクビクしながらの逃亡生活。キャラクター的には男くささを前面に押し出してはいるが、表情からは恐怖感をありありと感じ取ることができた。
シガーのニヤリと笑う表情を見ただけで、何か得たいの知れない危険な雰囲気が感じとれる。空気銃という一風変わった武器もそうだが、出逢った人々を、ただ、シンプルに自分の欲望のおもむくままに始末していく様は、ここ最近の日本で起きている無差別殺人事件の犯人と同様な心理状況なのではないかと思えてきた。車が壊れれば、運転手を殺し、代わりの車を手に入れる。自分を始末しにきた殺し屋さえも、あっさりと始末する。さらには雇い主さえも…。
ルウェリンとシガーに比べると、いい味をだしてはいるが、存在感が薄いのは老保安官だ。的確に推理し、犯人を追い詰めているようで、実は何もできてはいない。本作は、ミステリーではなくサスペンスなので老保安官の推理がたとえ的を得ていたとしても、衝撃は少ない。シガーという異常者に翻弄されているようにしか見えなかった。
本作がアカデミー作品賞を受賞したというのは、実はちょっと驚きだった。この手の作品は受賞しないものと思っていた。過去にコーエン兄弟の作品としてはファーゴを見たが、それも良く考えると似たような作品だった。アカデミー賞をとったということで、コーエン兄弟イコールこの手の作品というイメージがついてしまわないか、それだけが心配だ。
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