夏への扉


2006.4.10 夢のある作品 【夏への扉】

                     
■ヒトコト感想
ありきたりなSF物かと思いきや、冷凍睡眠を絡めることでうまく展開している。日本で言うところの浦島太郎に時間旅行を追加したような感じか。本作はそのSF部分も優れているが、それよりも冷凍睡眠する前の生活や技術者としての生活など、非常に心地よく読むことができた。夏への扉というタイトルもすばらしい。ちょっと残念なのは猫のビートをもっと時間旅行に絡めてほしかった。

■ストーリー

ぼくらは、1970年12月、コネチカット州に住んでいた。猫のピートは、いつも冬になると、夏への扉を探す。たくさんあるドアのどれかが夏に通じていると信じ込んでいるのだ。そう、ぼくも夏への扉を探していた。婚約者のベルに裏切られ、仕事は取りあげられ、生命から二番目に大切な発明さえも騙しとられてしまった。そんなときだ、ぼくの目が「冷凍睡眠保険」に...

■感想
ガチガチのSFを期待するとちょっと期待はずれかもしれない。SF部分よりもむしろそれ以外の部分が優れているので、全体的な作品のレベルも非常に高くなっているのだと思う。読んでいて、退屈することがなく、次の展開がある程度予想できても面白みを損なわない展開はなかなかできないと思う。

あっと驚くような展開もなく、ある程度の山あり谷ありはあるが、一貫して作品の中からは悲壮感や悲しみというのをあまり感じない。物語中には不幸のどん底に落とされるような場面もあるがそれでも、登場人物の前向きな姿勢と生き方に勇気がもらえるような気がした。

冷凍睡眠と時間旅行。これはある意味プラスとマイナスの作用といえるだろう。それをうまく使って、冷凍睡眠での疎外感や時間旅行での矛盾点を絶妙に緩和している。同じ時代に二人の人物が同時に存在する可能性など、考えれば考えるほど混乱しがちなテーマだが混乱させないように、余計なものはすべて省いてしまっているのも良い。

技術的な進歩が作中の2000年よりも今現在が遅れているということや、作中に登場する技術的な話が
非常に無理があったりと、気になる箇所もあるが、夢のある作品には変わりない。



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