村上朝日堂の逆襲 


 2008.4.13  ゆるい雰囲気が癖になる 【村上朝日堂の逆襲】  

                     

評価:3
■ヒトコト感想
エッセイを何作か読めば、作者の人となりがなんとなくわかってくる。今までは物語を通してしか想像できなかった作者のイメージが、本作を読んでわりとはっきりイメージすることができた。大方の予想どおり決して社交的ではなく、どちらかというと、とっつきにくいタイプで、不機嫌になるポイントがなかなかつかめない。そんな人物を想像してしまった。ある意味、これだけ作品が一般受けしており、小説を書き始めてからすぐにヒットを連発するあたり、天才と言ってもいいのかもしれない。本作からは、そんな天才的な雰囲気は一切感じないが、天才にありがちな、とっつきにくさというのをヒシヒシと感じることができる。ただ、一度打ち解ければ、かなり付き合いやすいのかなとも思った。

■ストーリー

交通ストと床屋と教訓的な話とハワイで食べる冷麦が好き。高いところと猫のいない生活とスーツが苦手。時には「セーラー服を着た鉛筆」について考察するかと思うと、小津安二郎の映画の細部にこだわったりもする。「自由業の問題点について」に始まって、「長距離ランナーの麦酒」に終わる、御存じ、文・村上春樹とイラスト・安西水丸のコンビが読者に贈る素敵なワンダーランド。

■感想
素敵なワンダーランドと言われればそうなのかもしれない。自由業という仕事はないと思っていたが、小説家は自由業なのだろうか…。作家として生活するには血の滲むような努力をし、一日中机の前に座ってひたすら作品を生み出し続ける、ストイックで、辛く苦しい仕事だと思っていたが、どうもそうではないらしい。作者は正真正銘の天才であるから、のんびりと小説を書きながら、日々の生活を送れるのだろうか、それともエッセイにはあえて書いてはいないが、裏では不眠不休で書き続けているのだろうか。謎が多いが作家のイメージが変わったのは確かだ。

本作からは作者の趣味趣向がわかるのはもちろんのこと、仕事に対するスタンスというものも読み取ることができる。小説家の中には、必死で作家という地位にしがみつく人もいると思う。しかし、作者はなんらかの障害が目の前に現れたら、あっさりと作家活動をやめるような気がした。それだけ情熱が希薄だというのではなく、自分の中で人生において大事なものがしっかりと決まっているということだろう。何かに必死にしがみつくというのは絶対にないような気がした。

もともとは週刊誌に連載されていたエッセイなので、脈略はない。その時の気分でテーマは大きく変わってくる。くだらないと思うこともあれば、目からうろこが落ちるようなエッセイもある。基本的には作者の普段の生活以上のことが書かれることはないのだが、自分とリンクする部分があると、途端に興味がわいてくる。長距離ランナーうんぬんの話では、最近、自分が少し走り始めたので、非常に興味深く読むことができた。さらに言うならマラソンレースに出てみたいとすら思えてきた。

このゆるい雰囲気が癖になるのかもしれない。




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