ミリオンダラー・ベイビー


2006.10.21 目が離せない 【ミリオンダラー・ベイビー】

                     

評価:3

■ヒトコト感想
面白さにもいくつかあると思うが、本作を単純に面白いというと語弊があるかもしれない。面白いというよりも目が離せない。そして見終わったあとに心にこびりつくように張り付いてはなれない。ストーリー的には何てことない話なのかもしれない。バッドエンディングだから心に残るのだろうか。序盤から中盤にかけて典型的なサクセスストーリーのはずなのだが、全体を通して暗く不幸な雰囲気。それなのに目を離すことができない。名演達の力なのだろうか、演出の力なのだろうか。それらすべても当然あるのだろうが、おそらく心の奥底では、この不幸な境遇の人々がどうなるのか幸せにならないとわかっていながら、目が離せないのは、同情心よりも心の苦悩を感じ取りたいから見続けるのかもしれない。

■ストーリー

トレーラー暮らしで育ったマギーのたったひとつの取り柄はボクシングの才能。彼女は名トレーナーのフランキーに弟子入りを志願し、断られても何度もジムに足を運ぶ。根負けしたフランキーは引き受け、彼の指導でマギーはめきめき上達。試合で連破を重ね、ついに世界チャンピオンの座を狙えるほど成長。しかし、思いもよらぬ悲劇が彼女を襲った。

■感想
トレーナーのフランキーとボクサーのマギー、そしてジムの管理人この三人が関わるエピソード以外はほとんどぶった切っているように無駄なものが一切ない。三人に共通するのは人生に対する閉塞感。これから何か目標に向かってがんばろうとするマギーに対する二人の行動を見ていると、応援はするが関わりたくない。この作品全体を通して伝わってくる倦怠感のようなものかもしれない。不幸話をされて喜ぶのは最初だけ、マギーが活躍すればするほど見ているものにはカタルシスを得ることができる。

普通の作品ならばマギーの成長と共に、その利権に関わる外野が騒がしくなり、マギーに対して取り巻きも付くはずだろう。しかし本作ではそのあたりは一切表現せずにどんなに連勝街道をつっ走って金を儲けても、あるのは家族との関係とフランキーとの練習だけである。ここで華やかな部分を出さないことでも作品の方向性をはっきりと理解することができた。この作品はハッピーエンドや人を明るく楽しませるものはでなく、人の苦悩や悲しさをどれだけ見ている人に伝えるのか、それだけに焦点を当てているのだと思った。

マギーの夢がチャンピオンになることだという描写はない。しかしある意味目的は達成されるのだろう。その目的を達成する直前におとずれる不幸。チャンピオンになれば幸福になれるかというとそうではないが、見ているものにとってはそこから劇的にマギーに幸せがおとずれることを望んでいる。その期待を裏切るように不幸が不意に襲ってくる。人は救いのない状態を見ると呆然としてしまう。本作のマギーを見ると
哀れみを超越した気持ちになってしまう。

フランキーとマギーの心情を考えると、見終わった後はつらい。しかし淡々とナレーションをするモーガン・フリーマンの声でフランキーの行動はなんでもないことであり普通の日常は続くのだと言えば、本作を見た直後の暗い気持ちも少しはやわらいだような気がした。



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