見張り塔からずっと 重松清


2007.4.15 人の黒くて悪い部分 【見張り塔からずっと】

                     
■ヒトコト感想
客観的に見ているようで、ものすごく主観が入った生々しい作品。ニュータウンに暮らす人々の様々な生活。決まりきった言い方をすれば、よくある暮らしをリアルに描いている。しかし、実際にはそれだけではない。特に最初の「カラス」から衝撃を受けた。集合住宅のいじめというのは昔からどこにでもあったことだろう。それがただニュータウンに変わっただけかと思いきや、そこにはもっと奥深くどろどろとした理由がある。人の悪い部分をあからさまに表現しているので、読んでいて辛くなる。ものすごく的確なだけに苦しくなる。目を背けたくなるが、事実としてそこには描かれている。とても苦しくなる作品だ。

■ストーリー

発展の望みを絶たれ、憂鬱なムードの漂うニュータウンに暮らす一家がいる。1歳の息子を突然失い、空虚を抱える夫婦がいる。18歳で結婚したが、夫にも義母にもまともに扱ってもらえない若妻がいる…。3組の家族、ひとりひとりの理想が、現実に浸食される。だが、どんなにそれが重くとも、目をそらさずに生きる。

■感想
三作が三作とも別にニュータウンだから特別というわけではない。しかし、強烈な印象を残すのは、リアルに人の奥底にあるどろどろとした黒い部分を隠すことなく表現していることだ。ここまでしっかりと表現されると、何も言い訳ができない。ニュータウンのいじめや子どもを失った夫婦。そしてできちゃった結婚をした夫婦。オブラートに包んだ書き方をすればいくらでも心地よい言葉を並べることはできる。寂しさからでた出来心だとか、行き過ぎた愛だとか。しかし本作にはそういった言い訳が一切ない

人間の本質は他人の幸せを喜ぶことができない。子どもを失った夫婦も、近所の子どもという存在が無ければまったく違った生活を送っていただろう。できちゃった結婚をした夫婦も奥さんがしっかりした人ならばまた違っただろう。人の嫌な部分をあえてクローズアップしているようで、読んでいて辛くなる。まったく自分には関係のないことだと思い、心にバリアを張れば、まだマシかもしれない。

本作の特徴としては、最終的にすべてをひっくり返す救いの手が差し伸べられることが絶対にないということだ。溜まりに溜まった不満をそのままに、結局なんら解決策は見いだされてはいない。ニュータウンの実情として、これがすべてではないが、近いものは現実にあるのだろう。本作をリアルに感じるだけに、実際に自分がその立場になったら一帯どうなってしまうのか。それを考えると恐ろしくなる。

見張り塔から見るというよりは、隣で見ているが、知らんふりをしているような感じか。




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