舞姫通信 重松清


2007.11.28 不安定な心の持ち主 【舞姫通信】

                     
■ヒトコト感想
自殺をテーマにした作品なのだろう。生きる理由と死ぬ理由を物語の登場人物たちは、迷走しながらも見つけ出そうとする。自殺志願のタレントである城真吾が、テレビ番組でパネリストたちと自殺について意見を交わす。なんだか、説得力があるようで、納得できる内容ではなかった。登場する人々も、どこか心を病んでおり、正常とは思えなかった。逆に本作に出てくる人々の考えに深く共感できる人は、危ないのかもしれない。どのようなラストシーン(死)を過ごすかなど、考えたこともない。感情移入は難しい。そして、不安定な心の登場人物たちにあまり良い印象はもてなかった。

■ストーリー

ラストシーンは、もう始まっているのかもしれない。人は、誰でも、気づかないうちに人生のラストシーンを始めている。17歳で死んだ「自殺志願」のタレント城真吾にとっては、16歳は晩年だった。城真吾は教えてくれた。人は死ねる。いつ。いつか。いつでも―。でも、僕は思う。僕の教え子の君たちの「いつか」が、ずっとずっと、遠い日でありますように。教師と、生徒と、生と死の物語。

■感想
過去に自殺した者を伝説的なあつかいとし、舞姫としていつまでもそこに残す。高校などでは、わりとありがちな現象なのかもしれない。ただ、その舞姫に対しての学校側の対応や、生徒たちの気持ち。メインのテーマは自殺となってはいるが、いくつもの小さなテーマが隠れている。年齢差が広がっていくたびに生徒たちを異星人のように感じる教師。そして、双子の兄弟と自分自身のアイデンティティーに悩む男。どこか正常な心の持ち主だとは思えなかった。

生きるとはなんだろうか。自殺の是非を考える時には、必ずでてくる命題かもしれない。そして、それに対して明確な答えはださない替わりに、自殺することが悪いのか、という問いに対してもはっきりとした反論を示していない。本作を精神的不安定な時期や、多感な高校生が読んだら、物語の若者同様、城真吾の考え方に心酔してしまうかもしれない。物語の流れがなんだか、自殺を美化するような雰囲気に感じてしまった。

本来の作者の意図するところとは、まったく別の方向に読み進めてしまったためだろうか、終始不安感が付きまとった。結局、壮大なカタルシスをえられるわけでもなく、最後までぐずぐずと続く、個人と生死観。幸せになった登場人物は皆無といっていいだろう。そんな後味の悪さも、自殺をテーマとした作品としては当然なのだろうか。ラストが予定調和的流れでハッピーエンドだとすべてが嘘くさく感じてしまうからだろうか。

重い話であることは、間違いない。




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