虚空の逆マトリクス 


2006.1.19 微妙な作品が多数 【虚空の逆マトリクス】

                     

評価:3

■ヒトコト感想
短編集はもともと統一感というのは無いものと思っている。しかし本作ほどまったくばらばらな印象を受けるのも珍しい。いちおうミステリーという形はとっているのだが、純粋なミステリーかというとそうではない。どれが一番面白かったかと聞かれるととても困ってしまう。正直言うと特にどれも印象に残っていない。強いてあげるならば最初のトロイの木馬は森作品らしい感じはする。今回は最後にもうしわけ程度にS&Mシリーズのメンバーが出てくる。これがちょっとしたサービスなのだろう。

■ストーリー

資産家令嬢・西之園萌絵にとって、その晩は特別な夜になるはずだった。ところが、小さなすれ違いから、誘拐事件の謎解きを…。トロイの木馬、赤いドレスのメアリィ、不良探偵、話好きのタクシードライバー、ゲームの国(リリおばさんの事件簿1)、探偵の孤影、などが収録されている。

■感想
「トロイの木馬」という作品は森浩嗣お得意のバーチャルな世界と密接にかかわる物語で、トロイの木馬というウィルスの概念をよく理解していない人にとってはわけがわからない作品になってしまう。この短編集を買う人はおそらく森作品に精通している人なのだろうから、そのへんは心配ないのかもしれない。

別の意味でものすごく印象に残っているのは「ゲームの国」でこれが登場人物、特にりりおばさんが回文をこよなく愛しており話す言葉がいちいち回文になっている。それをずっと見せ付けられていると、何気ない普通の言葉も回文でないかと余計なかんぐりを入れてしまう。この作品も回文というのがものめずらしいのだが、ミステリー的に特に優れているとは思えなかった。

最後にS&Mシリーズでおなじみの犀川と萌絵さらには喜多までが登場する。これは今までのファンに対するちょっとしたファンサービスなのだろうか、犀川と萌絵のいつまでたっても進展しない恋愛もようにいらいらしているような人にはうってつけの作品かもしれない。しかし、進展したといっても、ウブな犀川なのでファンが期待するほどの進展はない

短編集に今までの長編シリーズのようなものを求めるのは酷かもしれないが、その片鱗くらいは見せてほしかった。



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