空港にて 


2006.10.4 心と人の動き 【空港にて】

                     

評価:3

■ヒトコト感想
それぞれの場面で淡々と進む物語。物語と言えるのか分からないが、登場人物達の心の奥底を覗き見るようなそんな作品だ。すべての短編に言えることだが、登場人物達が陽の方向に向かっていない。どこか陰に入っているというか正よりは負の印象のほうが強い。どこにでもある場面の中で、日常に自分がすれ違っている人々が実はこんなことを考えていた・・・というのを言いたいのだろうか。もしそんな色眼鏡で他人を見てしまうと、自分からは到底心を開くことができない。ある特殊な一例として読む分には面白いのだがこれがすべての場面に当てはまるとは思えない。

■ストーリー

コンビニ、居酒屋、公園、カラオケルーム、披露宴会場、クリスマス、駅前、空港―。日本のどこにでもある場所を舞台に、時間を凝縮させた手法を使って、他人と共有できない個別の希望を描いた短編小説集

■感想
「空港にて」というタイトルどおり「何とかにて」という感じでそれぞれの場面に応じた出来事がある。出来事といってもそれほど大げさなものではなく、ただ普通の日常がそこにはあるだけだ。事件や非日常なことが起こるわけではないので、自然と登場人物の心の描写に終始している。そしてそれはある意味では普通かもしれないが、僕からすると普通ではなく、どこか心を病んでいるようなそんな印象さえ持ってしまった。

日常的に当たり前に利用する環境で、その場にいる一人ひとりを観察するとそれなりにドラマがあるのだろう。いったいこの人は何を考えているのか、そして今からどうしようとしているのか。はたから見ると幸せで何不自由なく暮らしていそうな人でも、実は心の奥底ではどんな考えを持っているのかわからない。ちょっと
人間不信になりそうな作品かもしれないが、この登場人物達に共感が持てる人もいるかもしれない。

人間の本質としては常に他人がいなければ自己を認識できないというのはあると思う。他人に自分というものが認識されて始めて自分の存在がそこにあると分かる。自分が透明人間のように誰からも認識されなければ、自己を失うのと等しいのかもしれない。今回の短編の中には直接的にそんな表現はないが、他人との繋がりを求めながら、それを恐れている。そんな雰囲気さえ感じてしまった。

淡々と読み進むことができるわりには、読み終わるまで時間がかかった。



おしらせ

感想は下記メールアドレスへ
(*を@に変換)
*yahoo.co.jp