コックサッカーブルース 


2008.2.13 口にだせない言葉 【コックサッカーブルース】

                     

評価:3

■ヒトコト感想
なんだかわからない奇妙な女が部屋に上がりこみ、不思議なメモを残していく。口に出すだけで周りの空気を一瞬にして凍りつかせるタブー的な言葉。そして、どこまで大きいかわからない、巨大組織。ちょっとした行き違いから、その組織に狙われる堀坂。この冒頭はとても好きだ。謎が謎をよび、底のしれない流れの中で、どれだけ壮大な物語かとワクワクしながら読み進めた。しかし、中盤からとたんにSMの話となり、流れが怪しくなったかと思うと、そのままあっさりと終わってしまった。導入部分の勢いが後半は弱まったような気がしたが、最初に読者をひきつける材料は多数そろっている。それに、まんまとはまってしまったような感じだ。

■ストーリー

オレは堀坂進太郎、小さな出版社のオーナーだ。或る日、オレのマンションに、別居中の妻の服を着た見知らぬ女が上がりこんでいた。それが奇妙なことの発端だった。SMモデルの女の剥ぎとられた爪が送られてきたり、変態性欲者の群れに、オレはどんどん巻きこまれる

■感想
とてつもなく巨大な組織に狙われ、「ドラゴンフェスティバル」という言葉を聞いただけで皆の顔が青くなる。そして、事態は思わぬ方向に。いったいドラゴンフェスティバルとはなんなのか、そしてなぜタブーとなっているのか、想像力は読めば読むほど増幅されていく。そして、その着地点はというと…。随分予想よりもあっさりとしており、想像力を働かせすぎ、かなり先走りすぎたと気づいた。終わってみれば、結局はSMとアブノーマルな世界の話が繰り広げられているだけだった。

ことの発端がSMだとしても、それを取り巻く組織や、巨大なネットワークというのは興味深い。十年以上前の作品でありながら、まるで今の時代のネットワークを暗示させるような描写が多数存在する。ある一人の女を中心として、縦社会ではなく、横のつながりで、それぞれ自由に行動しながら強固なネットワークが作られている。ある意味、最新の組織の形なのだろう。それをインターネットがないこの時代に考えていたのはすばらしい先見の明だ。

一つの奇妙なことから、本来はまったく関わりのない世界にどっぷりとつかってしまう。バブル全盛での日本を感じさせるような描写と、金さえあれば何でもできるという成金大国である日本を暗に警告するような箇所もある。くしくも、本作の中にある策略を使わずとも、バブルは崩壊し、日本の金は海外へ流出することになる。壮大な計画であったり、底の見えない組織であったり、はっきりと形が見えないものは恐ろしい。そして、その恐ろしさを極限まで引っ張るのは本作の中盤までだろう。

すべての謎が解けてくると、あとは流れに身をまかせるように読むしかなかった。ネタばれする直前が一番緊張感に溢れていたような気がする。



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