きみにしか聞こえない calling you 乙一


2006.7.31 特徴はあるが心に残らない 【きみにしか聞こえない Calling you】

                     
■ヒトコト感想
三つの短編からなる短編集。それぞれ特徴はあるのだが乙一独特のせつなかったり、悲しかったりする作品はない。悲しい物語にしようとしているが、どうしてもあともう一ひねり足りないという印象だけが残った。今までの作品と比べるとちょっとテーマに関してもインパクトが弱い気がするし、期待していただけに落差は大きいのかもしれない。もっと毒々しいホラーな作品や涙が流れそうになるのを必死に我慢しながら読むというような作品を期待してしまう。

■ストーリー

私にはケイタイがない。友達が、いないから。でも本当は憧れてる。いつも友達とつながっている、幸福なクラスメイトたちに。「私はひとりぼっちなんだ」と確信する冬の日、とりとめなく空想をめぐらせていた、その時。美しい音が私の心に流れだした。それは世界のどこかで、私と同じさみしさを抱える少年からのSOSだった…。

■感想
「calling you」は頭の中の電話という一風変ったものを題材として扱っており、その特徴を面白く利用していると思う。しかしある意味未来が分かるような状態で会ったこともない人間のために命を懸けて守ろうとするだろうか。お互いが頭の中で長い間会話を続けていたとしても、そこまでの関係性を築くことができるのだろうか。最後の結末を読むと、確かに悲しくなるのだがそれはないだろうという気持ちの方が勝ってしまった。

その他の二作品はさらりと読めて最後は微妙な気持ちになる。悲しくもないし別にせつなくもない。恐怖でもない不思議な感覚だ。おそらく現実では起こりえないことを作品の中では最初は戸惑うものの、結局当たり前のことのように受け入れてしまっている。その結果、奇妙なことが起こってもそれは起こりうること、という雰囲気が全体を通して流れている。全体が非現実的なので最後の結末を読んでも、そうなのだという感想しかなかった。

本作の短編を一年後に憶えているかというとおそらく内容はほとんど忘れているだろう。どこにでもある内容ではないが思い出せないのは、映像として頭に思い浮かべるのが難しい作品だからではないだろうか。



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