川の深さは 


 2008.6.21  相当にマニアックな知識 【川の深さは】  HOME

                     

評価:3

■ヒトコト感想
現実の事件を連想させるような組織や事件が登場し、当然ながら、某国を連想させる描写もある。確実にフィクションだとわかっているのだが、もしかしたらこの日本のおおっぴらにできない部分を克明に描いているのかもしれないと思わせるほどの緻密さ。正直言うと、本作に登場するような警察組織や秘密組織系の知識がいっさいないために、これがはたして正しいのかどうかさえ判断できない。ただ、しっかりと丁寧に描かれていると、あたかも現実世界の出来事のように思えてくる。現実離れの能力をもった少年が縦横無尽に暴れまわるという、荒唐無稽なストーリーだが、引き込まれる何かはある。何よりもアンダーグラウンドの世界をのぞき見るようで非常に興味深かった。

■ストーリー

「彼女を守る。それがおれの任務だ」傷だらけで、追手から逃げ延びてきた少年。彼の中に忘れていた熱いたぎりを見た元警官は、少年を匿い、底なしの川に引き込まれてゆく。やがて浮かび上がる敵の正体。風化しかけた地下鉄テロ事件の真相が教える、この国の暗部とは。

■感想
北の組織に宗教団体。現実世界の事件をそのまま物語の中に登場させ、暗に現実の組織を批判するような流れ。そのあたりの話に詳しくないので、大まかにしかわからないが、自衛隊に対して、作者の並々ならぬ強い思いというのは感じることができる。世界三位の戦力をもっているということにも驚いたが、あまりにも国民全体に浸透しない、その実力のさまを本作を通じて知らせたいのだろうか。それとも、満たされない鬱憤を小説という形で昇華させようとしているのだろうか。作者の個人的感情がものすごく出ているように感じる作品だ。

登場キャラクターとしては定石をしっかりと抑えている。戦闘技術にたけ、知識も豊富でサバイバルにも強い。いきなりアパッチを操縦できるあたり、普通ではありえない少年、保。謎の組織のボス的人物。それを補佐するが保にひそかに恋心を抱いていた涼子。仁義に熱い金谷。そして、一本木で思ったことをすぐに行動に起こす、元マル暴の桃山。これだけそろえば、物語の流れも大方想像がつく。そして、想像通りの流れとなる。ありきたりかもしれないが、読んでいて安心感があるのは優れた作品の証拠かもしれない。

作者の作品の傾向として、自衛隊関係の話が多いようだが、読むのは本作が初めてだ。そのためか非常に新鮮に感じ、まず知識の深さに驚かされた。言い方を変えるとマニアックとも取れる作品なのかもしれない。物語の登場人物たちに感情移入できるかというと、それも、もしかしたら難しいかもしれない。しかし、冒険ものとしては当初の目的を達成しており、しっかりとカタルシスを得ることができるので読み終わるとすっきりとする。

作者の最初の自衛隊を扱った作品だけあって、インパクトはある。今後、別の作品を読むのが楽しみだ。



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