看守眼 横山秀夫


2007.9.8 それぞれの職業人の目 【看守眼】

                     
■ヒトコト感想
その職業に従事するものしかわからない雰囲気を、これほどまで濃密に表現できるのはすばらしい。いつもの横山作品同様、堅い雰囲気を漂わせながら、最後はきっちりと後始末をつけている。ただ、短編という性質上、随分あっさりと終わっている。このあと濃密な後日談的ネタ晴らしがあるのかと思いきや、そのままサラリと終わる。読み終わった瞬間は、なんだか気が抜けたような印象をもった。引き伸ばそうと思えばいくらでもできるが、短編なのであえてそうしているのだろう。

■ストーリー

いつか刑事になる日を夢見ながら、留置管理係として過ごした近藤。まもなく定年を迎える彼は、証拠不十分で釈放された容疑者の男を執拗に追う。マスコミを賑わした「死体なき殺人事件」の真相を見抜いたのは、長年培った「看守の勘」だった。(『看守眼』)ほか

■感想
看守眼、自伝、口癖など刑事以外の様々な職業の人物にスポットを当てている。職業的要素もあるのだろうが、堅い文体で非常に硬派な印象をもった。その職業独特の視点から描かれる様々な出来事。普通に考えればありえないことも、濃密な人物描写と、自然な展開で、すんなりと頭の中に物語が完成する。ありきたりな刑事対犯人という流れではなく、すべては日常での一コマなのだろう。

誰が良くて誰が悪いというのはなく、全体的な印象では人生の教訓のようなものも含まれているような気がした。普段は何一つ変わったところのない、平凡な人物も仕事に従事すれば、職業人となる。そして、その職業ならではの出来事がまっている。登場人の職業がバラエティに富んでいるためか、短編を読み始めると大きな変化に驚くが、結局それも読んでいくうちにすべてが飲み込まれてしまう。全体を通すと作品のトーンは同じだった。

短編ということもあり、濃密な結末を期待するのは酷なのかもしれないが、随分あっさりとした終わり方だ。物語の確信に近づき、秘密が暴かれ、さあ、これからここに至るまでの細かい説明があるのかと思いきや、そのままあっさりと終わってしまっている。読み手としては、尻切れトンボな印象を拭い去ることはできない。物語をばっさりと切り取られたような印象だろうか。

今までの横山作品どおりの硬派な雰囲気だが、濃密な結末を期待するとちょっとがっかりするかもしれない。しかし、主人公たちの職業がこれほどバラエティに富んでいる作品は今までにないだろう。




おしらせ

感想は下記メールアドレスへ
(*を@に変換)
pakusaou*yahoo.co.jp