悲しき熱帯 


 2008.4.15  熱帯=楽園か? 【悲しき熱帯】  

                     

評価:3

■ヒトコト感想
熱帯をテーマとした短編がいくつか収録されている本作。最近のわかりやすい文学ばかり読んでいる者にとっては厳しい以外の何者でもない。熱帯といって真っ先にイメージするものを小説に昇華しているのだろうか。熱帯のイメージにぴったりな作品ばかりなのだが、よく意味が理解できない作品も多かった。蒸し暑く、やしの葉で編んだほっ立て小屋の中、半裸で過ごしその傍らには、足の数が異様に多い派手な色をした虫が這い回る。そんなイメージにぴったりの作品ばかりだ。イメージが先行し、内容をしっかりと頭の中で理解することが難しかったのも事実だ。ただ、このイメージを楽しむのが正しい楽しみ方なのだろうか。

■ストーリー

熱帯をテーマにした短編集。南国=楽園的なイメージではなく、その中のさり気ない物悲しさを綴る。

■感想
悲しき熱帯というタイトルどおり、全ての短編が読み終わるとなんだか物悲しい気分になってくる。幸せなハッピーエンドは決して訪れない。どこか、屈折した考えをもった人物たちばかりが登場し、それでいて相手に対してしっかりと言葉を主張する。熱帯のイメージとぴったりな作品ばかりだが、何を意図しているのか、はっきりと理解することはできなかった。

南国といえば楽園のイメージだが、熱帯というとインドネシアなどのアジアを思い浮かべてしまう。本作の中ではグァムも登場するのだが、そこで描くイメージもアジアの熱帯を思い浮かべてしまう。むしむしとしたジャングルの中で、褐色に焼けた肌を持つ男女が、汗をかきながら、たたずんでいる。やしの葉やココナッツの実が散乱する中で、皿にもられた食事を手づかみで食べる。作品の内容とはまったくリンクしないが読んでいる間中、終始そんなイメージが頭の中にこびりついていた。

本作のタイトルである”悲しき熱帯”は秀逸だと思う。全ての短編がこのタイトルに集約されていると言っても過言ではない。もし、夏に読んでいたら、また違った印象をもったことだろう。春先の今だからこそ、すんなりと冷静に読めたと思う。これが現実世界でも暑いさなかに読んだとしたら…。もしかしたらものすごい嫌悪感を感じたかもしれない。

最初のタイトルと目次を見ただけで、全てのイメージが決まってしまうような作品だ。




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