神の子どもたちはみな踊る 


2007.3.9 忘れかけた阪神大震災 【神の子どもたちはみな踊る】

                     

評価:3

■ヒトコト感想
阪神大震災が人々に与えた影響というのは、はかり知れない。日本の大事件に対して何かとリアクションする作家なので本作のような作品を書くのも理解できる。震災がどれほど作品に影響を与えるのか。いくつかの短編で構成されている本作の中には、かならず何かしら阪神大震災に対するアプローチがある。しかしそれが作品の中で絶対に必要なものかというと少し疑問に思った。なんとなくだが、とってつけたような印象をうけた。あってもいいが、絶対に必要ではない。しかしそれがあることによって、あの衝撃を忘れないという効果はあるかもしれない。著名な作者が書くことが重要なのかもしれない。

■ストーリー

1995年1月、地震はすべてを一瞬のうちに壊滅させた。そして2月、流木が燃える冬の海岸で、あるいは、小箱を携えた男が向かった釧路で、かえるくんが地底でみみずくんと闘う東京で、世界はしずかに共振をはじめる…。大地は裂けた。神は、いないのかもしれない。でも、おそらく、あの震災のずっと前から、ぼくたちは内なる廃墟を抱えていた―。

■感想
阪神大震災に強烈な影響をうけ、震災をリアルに感じ、その情景を思い浮かべるような作品ではない。多くは震災後のそれぞれの心の動きを作品として描いている。なんでもない日常の中にも震災によってどんな影響をうけたのか。不思議な作品の中に突如として登場するリアルな震災という言葉。虚構の世界に突如として現れた阪神大震災の影響。かえるくんとみみずくんの戦いなどは、下手するととんでもない作品と思われるかもしれない。

本作を読むときに何を期待して読むのか。過去の村上春樹作品と同じようなものを求めている人でもちょっと辛いかもしれない。阪神大震災に対してリアルで被害を受けたり経験した人は、もしかしたら大きな違和感を感じるかもしれない。リアルな出来事を虚構に絡めると、そこだけ浮いてしまい下手すると馬鹿にされているような気分にさえなるかもしれない。どこまで虚構と現実の境界線を曖昧にすることができるのか、それにかかっていると思った。

皮肉にも阪神大震災を一つの出来事としてサラリと流した作品のほうが面白いと感じた。密接にかかわらせた作品は、なんだかその面白さを理解することができなかった。表題にもなっている「神の子どもたちはみな踊る」だけは阪神大震災は抜きにして、心の奥底に響き渡るような重厚なリズムを感じ、読んでいて心地よくなってきた。

阪神大震災に思い入れがある人は逆に読まないほうがいいのかもしれない。



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