回転木馬のデッド・ヒート 


2007.2.27 嘘のようなホントの話 【回転木馬のデッド・ヒート】

                     

評価:3

■ヒトコト感想
最初にすべて実話と言い切り、人から聞いた奇妙な話を小説化している。普通の作品とは違う一風変わったところがあるが非常に読みやすく、そして実話ということでハラハラどきどきもする。人が話す奇妙だがありえなくもない話を村上春樹流の言葉で昇華している。この文章の向こう側には生きた人間の経験があるというリアリティ。作者が創作する虚構の小説と雰囲気は変わらないのだが、実話ということが大きいのかもしれない。奇妙だが暖かくそして目が離せなくなってしまう。

■ストーリー

人生というメリー・ゴーラウンド そこでデッド・ヒートを繰りひろげるあなたに似た人現代の奇妙な空間都会。そこで暮らす人々の人生をたとえるなら、それはメリー・ゴーラウンド。人はメリー・ゴーラウンドに乗って、日々デッド・ヒートを繰りひろげる。人生に疲れた人、何かに立ち向かっている人……、さまざまな人間群像を描いたスケッチ・ブックの中に、あなたに似た人はいませんか。

■感想
他人が話す物語は嘘みたいなホントの話。それを作者が独特の雰囲気で文章にしている。すべてが実話であってもおかしくはないがどこか奇妙。今流行の熟年離婚を先取りしたような「レザーホーセン」。半ズボンが原因で奥さんに捨てられた旦那。この文字だけ見ると、信じることはできない。しかし本当に起こったことで、読み終わると変に納得してしまうから不思議だ。

「タクシーに乗った男」「プールサイド」「嘔吐1979」これらは淡々と読み進めることができるが、そこらの作られた物語よりも強く印象に残っている。何がと言われると説明するのは難しいが、真実の中に誰にでもある奇妙な部分があちこちから垣間見えるようで、読んでいて目を離すことができなかった。

その他の作品もそれなりに面白いが特に印象深いものはない。全体を通してすべてが実話であるというちょっとした縛りがあるために、その後読む作品は身構えて読んでしまう。そんな身構えた状態で
自分の常識を上回るような奇妙な出来事が描かれていると、その印象は強く残る。特に導入部の短い文章でとたんに引き付けられてしまう。「なぜ半ズボンで別れるのか?」という気持ちは実話という前提があるからこそ出てくることだろう。

人の話を聞くことに長けている作者が書くと、ただの人の話がこうも物語として成立するのかと驚かされた。



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