陰の季節 横山秀夫


2007.4.12 厳しい出世競争 【陰の季節】

                     

■ヒトコト感想
警察組織といえども普通の企業とかわらない。いや、もしかすると一般の企業以上に厳しい出世競争が待っているのかもしれない。いくつかの短編が収録されているが、その中のどれをとっても出世や人事などの文字が消えることはない。警察組織をメインとした小説ながら複雑な殺人事件や難解なトリックなど一切ない。一見普通の事件だが、その奥底には様々な人の思惑が渦巻いている。これほどまで厳しい出世競争を強いられる世界だとは思わなかった。一つのミスが命取り。プライベートまで聖人君主でなければならない。そんな息が詰まりそうなほどピリピリとした緊張感が味わえる作品だ。

■ストーリー

警察一家の要となる人事担当の二渡真治は、天下り先ポストに固執する大物OBの説得にあたる。にべもなく撥ねつけられた二渡が周囲を探るうち、ある未解決事件が浮かび上がってきた…。

■感想
天下りが平然と描かれており、それを当たり前のように読み進める自分。天下り禁止法案がいろいろと議論されている中で、本作は事実をありのままに語っているような気がした。警察組織の幹部の天下りとそれをコントロールする立場の人事権を握る男。今までの警察小説ではない展開かもしれない。一般の企業と比べると特殊な職種のため、人事に関してここまで杓子定規だとは思わなかった。下手すれば一般の企業以上にドロドロとした人事の内容かもしれない。

短編それぞれに登場する主役たちも、事件を現場でバリバリと解決する立場にはなく、内部を管理する立場の人間ばかりだ。そうなってくると自然に話は内部的なことに移行していく。警察内部のプライベートまでを管理するほどの完璧主義と、本人のプライベートな部分までもが人事考査に影響する雰囲気。正直、警察組織としては市民の安全を第一に考え出世よりも犯人逮捕を一番に取り組んでいてほしかった。もちろんそんな人も沢山いるだろうが、本作がスポットを当てたのは、出世に燃える人物ばかりだ。

嫌になるような出世争い。事件の全体としてはたいしたことがないのだが、その奥底には人事をめぐった様々な思惑が潜んでいる。事件の内容よりも、減点式とも言える出世競争の中でいかに失敗せず、無難にすごすかという思いだけをヒシヒシと感じ取ることができた。

警察小説としては今までになく新しく感じた。しかし、本当の警察組織はこうであってほしくないという気持ちがあるのも確かだ。




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