影踏み 横山秀夫


2007.5.12 窃盗犯が事件に挑む 【影踏み】

                     
■ヒトコト感想
今まで読んだ横山作品にはない窃盗犯が主役という異色な作品だ。窃盗犯が主役とあって、全体の雰囲気は明るいものではない。どこか日々の生活でも決して表舞台にでることなく、影を選んで歩いているような雰囲気だ。しかし、良く考えると今までの刑事が主役の作品も雰囲気的には十分に暗かった。主役が刑事だろうが窃盗犯だろうが事件に望むスタンスは同じなのだろう。本作は双子の弟の声が聞こえるという、今までに無い設定がある。これがあることによってかなり雰囲気は変わってくるのだが、絶対に必要かというと微妙だ。

■ストーリー

窃盗罪での服役を終え出所した真壁修一(34)が真っ先に足を向けたのは警察署だった。二年前、自らが捕まった事件の謎を解くために。あの日忍び込んだ家の女は夫を焼き殺そうとしていた―。生きている人間を焼き殺す。それは真壁の中で双子の弟・啓二の命を奪った事件と重なった。十五年前、空き巣を重ねた啓二を道連れに母が自宅に火を放った。法曹界を目指していた真壁の人生は…。一人の女性をめぐり業火に消えた双子の弟。

■感想
複数の短編からなる本作。真壁が関わった事件を警察とは違った視点で解決してく。事件自体は複雑なトリックがあるわけではなく、人間の心の奥底にある優しさやちょっとした嫉妬など気づかないほど小さな何かをくすぐるように解決していく。主役である真壁自身が弟のこともあり、終始暗く、心の中に闇を持った雰囲気をかもし出している。しかし、この点については刑事が主役であっても同じような雰囲気であっただろう。

通称のび壁と呼ばれるほど名の通った窃盗犯である真壁が何食わぬ顔をして刑事たちと接触するのも横山作品の特徴なのだろう。普通ならば絶対に近づくはずのない関係が、お互いの情報交換や利害関係の一致でこれほど協力することがあるのか。独特な雰囲気の中、刑事であっても窃盗犯であってもその語り口調とやっていることのあざとさで言えば、刑事も窃盗犯もまったく違いがないように感じてしまった。

クールでどこか人生を達観したような雰囲気がある真壁。そんな男を待つ女が絶対に存在する。この久子という女が双子の弟の存在を光らせている。久子という存在があることによって、クールな中にも人間的な一面を見せ、弟との関係に一味も二味も味付けしている。

窃盗犯ならではの事件解決や、刑事では分からない部分から事件を紐解いていくなど、変わった視点からの作品だと思う。そして、複雑な敬意から窃盗犯になりさがり、その後の生活は明るいものではない。新しさと物悲しさを併せ持った作品だ。




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