十字屋敷のピエロ 東野圭吾


2005.8.23 推理小説好きには申し分ない 【十字屋敷のピエロ】

                     
■ヒトコト感想
ピエロが出てくるとそれだけで何かがあるよう気がする。
殺人現場にいわく付きのピエロ人形があり、如何にもそれが不吉な事件を呼び込んでいると
思わせる流れ。事件の本質やトリックは非情にシンプルでこれぞまさしく王道ミステリー
といような感じなのだが、勝手な想像をすれば本作のテーマは
ピエロを操り人形と見立て、誰かを自由に操り目的を達成することなのだと思っている。
最後の最後にそれを暗示させるような箇所があったが、定かではない。

■ストーリー
ぼくはピエロの人形だ。人形だから動けない。しゃべることもできない。
殺人者は安心してぼくの前で凶行を繰り返す。
もし、そのぼくが読者のあなたにだけ、目撃したことを語れるならば…。

■感想
読者に何か期待をさせるということはものすごく重要である。
期待することなくそのまま作品を読み進めるというのは結構苦痛を感じてしまう。
ピエロが登場し、そのピエロが目撃した事件を伝えてくれるという
本来なら絶対にありえないことをすんなりと自然にやりきることで
その行為が当たり前になってしまっている。
そのことで非現実的に感じたりしないのは、作者の筆力なのだろう。

怪しげな十字屋敷に薄気味悪いピエロの人形、悪趣味な元党首の肖像画といい
ミステリー作品に必要な要素は全てそろっているといっても過言ではないだろう。
それだけ必要十分な小道具達とともに、いわくつきな屋敷に住む人々、
複雑な人間観系の為に全ての人物が事件を起こす可能性がある。
ここまで材料がそろえばあとはそれを旨く料理するだけで十分面白い本格推理小説は
完成するだろう。

希望どおり本格推理作品としては申し分ないものだろう。
動機が弱かったり、最後のどんでん返しも少しインパクトに欠けたりというのは
あるかもしれないが、それも気にしなければ問題にならない程度だと思う。
しかし、僕が求めていたのは現在の東野作品にあるようなリアリティと社会性なので
それを本作の中からは見いだすことができなかった。

最新作を読んで気に入った作者の過去の作品を読むと、時に期待はずれになることが
あるが、何十年も続けていれば作風も変わってくるだろう。
その点は理解しているつもりだが、どうしても期待が大きいだけに、ハードルをあげてしまう。




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