今はもうない 森博嗣


2005.10.31 ネタばらしにニヤリ 【今はもうない】

                     
■ヒトコト感想
まんまと騙されてしまった。恐らくS&Mシリーズを読み続けている人ならば確実に騙され、
そしてネタばらしを読んだあかつきには、ニヤリとすることだろう。
シリーズを通して読んでいないと面白さは半減してしまう。
そして、そのシリーズの醍醐味を味わうことができなかった場合は一気に駄作に成り下がってしまう
可能性がありそれだけ、面白さはある一点に凝縮されている。
ある意味事件はオマケと思っても良いだろう。

■ストーリー
避暑地にある別荘で、美人姉妹が隣り合わせた部屋で1人ずつ死体となって発見された。
2つの部屋は、映写室と鑑賞室で、いずれも密室状態。遺体が発見されたときスクリーンには、
まだ映画が……。おりしも嵐が襲い、電話さえ通じなくなる。
S&Mシリーズナンバーワンに挙げる声も多い清冽な森ミステリー

■感想
見事に騙され、嫌な騙され方ではなく、納得いく騙され方だ
その部分は非常にすばらしく、S&Mシリーズナンバーワンといっても過言ではない。
しかし、そこを評価しない場合は途端に凡策に成り下がってしまうような気がする。
事件自体は確かにミステリアスであり、雰囲気的にもある意味ミステリーの王道だ。
嵐の中、なかなか助けにこない警察や孤立した別荘地など。
王道すぎて物足りなさを感じてしまう。

事件の探偵役もそれなりにそろっているのだが、森作品独特の頭脳明晰な人物がでてくるわけでもなく
淡々と推理していき、その結果特別びっくりするような推理や展開があるわけでもない。
凡人が推理し、バタバタと動き回る。
今までの落ち着いた犀川が全てをお見通しで最後にズバリと解決するような流れでもない。
登場人物達がうすうすと事件の全容を感じ取り、自然に解決する流れが尻すぼみ感を増幅させている。

事件はある意味オマケであり、どうでもよかったのだろう。
事件に意識があまり行かなかったおかげで、この作品のメインが活きているのかもしれない。
微妙なところだが、もしかしたら今のバランスが一番良いのかもしれない。
事件を複雑怪奇にし、ドロドロとした人間関係を絡めると全てがバラバラになり
何もかもが中途半端になっていたかもしれない。

そう考えると、この構成がベストであり、事件はオマケとして考えれば今までの作品を読んできた人達、
特にS&Mシリーズのキャラクターに愛着がある人にとっては十分楽しめる作品となっている。



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