2007.6.28 貴重な未完成作品 【ひたひたと】
評価:3
■ヒトコト感想
「群生」のことはおいといて、短編二作は人間の本当の恐ろしさを表現していると感じた。普通のホラーにはない、生きる人間の執念ほど恐ろしいものはないと思った。それぞれ男、女とパターンは異なるが、異常なほどの執着心。作品の真の意味合いは別のところにあるのかもしれないが、作品からは執念のような恐ろしい雰囲気を感じずにはいられなかった。ミステリー風なつくりにはなっているが、ミステリーさ加減が吹き飛ぶほど強烈な執念。特に男である自分からすると、女の執念に鳥肌がたつ思いで読み進めた。
■ストーリー
十二の深い傷跡を全身に刻んだ女のこと。少年に悪戯され暗転した小四の夏のこと。五角形の部屋で互いの胸の奥に封じ込めていた秘密を明かしたとき、辿り着くのは―急逝を惜しまれた著者最後の作品集。まさに着手寸前だった長編『群生』のプロット200枚も収録。
■感想
短編自体は連作物で今後すべての短編に何かしらの関係があったり、秘密を明かしたりと大きな展開が待っていたのだろう。今となってはそのからくりを知るすべがない。未完成の作品をあれこれ言うつもりはないが、短編としても十分に面白い。特別な何かがあるわけでもなく、大きなトリックや感動がまっているわけでもない。ただ、秘密を告白するという形で普通でないもの表現し、読者に恐怖感を与える。その最後の締めくくりが描かれていれば、さらに何かしら感じるものがあったのだろう。
短編二作品とも男と女の物語であり、それぞれが男と女の執着心のようなものを表現している。この流れでいくと残り三作も人間の執念のようなものを表す作品なのだろう。死んだ人間の霊的な恐怖よりも、生きている人間の執着心の方が恐ろしく、それらを束ねる謎の人物がいったいどういった関係にあるのか。非常に興味深いが、この結末を知ることができないのは残念だ。
「群生」は構成表といいながらも、立派に小説の形を作っている。しかし、読んでみるとどうも今までの作品のように入り込むことができなかった。ストーリーやキャラクターなども固まっており、特に不足を感じないが面白くない。恐らくまだ構成段階だからだろう。そう考えると、この作品が完成すると今までの野沢作品のように、目が離せない展開にもっていけるのかと、そっちのほうに驚いた。
未完成作品を読むことで、作者の最後の踏ん張りでどれだけ完成度が高まるのかが想像でき、その力に驚かされた。
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