ハサミ男


2006.2.15 巧みな一人称 【ハサミ男】

                     
■ヒトコト感想
一人称をうまく使い、叙述トリックで読者を驚かせているのだが、ミステリーを読みなれていない人ならばすこし混乱してしまうかもしれない。本作の一番注目すべきところであり、面白い部分ではあるが、読み込めていないと何がなんだかわからなくなってしまう可能性がある。自殺を繰り返す主人公。その時に決まって登場する<医師>という別人格。二人のやり取りは面白いのだが結局最後までその<医師>や、主人公のバックグラウンドに対しての説明がなかったのが気になった。

■ストーリー

美少女を殺害し、研ぎあげたハサミを首に突き立てる猟奇殺人犯「ハサミ男」。3番目の犠牲者を決め、綿密に調べ上げるが、自分の手口を真似て殺された彼女の死体を発見する羽目に陥る。自分以外の人間に、何故彼女を殺す必要があるのか。「ハサミ男」は調査をはじめる。

■感想
「ハサミ男」というタイトルと、読者に対して説明が少ない一人称。これをうまく使い叙述トリックを展開している。まんまと騙され、やられたという気持ちになったのだが、そこにいきつくまでは複雑なため隅々まで読み込んでいないと、本作の面白さは味わえないだろう。

様々な伏線が後になって活きてくる。事件としては非常にシンプルなのだが一人称と三人称を絡めているためにその単純さが消され、複雑になっている。そこが本作の狙いで、あえて一人称部分では誰の目線なのかわからないようにしている。それにあっさりとはまってしまったので、気づいた時には悔しさと共になんともいえない爽快感みたいなものがわいてきた。

ちょっと気になったのは、多重人格を持つ精神異常者を主人公としているのだが、そうなった理由など主人公に対する内面的な情報が皆無に等しいのが不満かもしれない。それと共にハサミ男が殺人を犯す動機も説明されていない。作中にそれらしい記述はあるのだが不十分で動機として納得できるようなものではなかった。

ある意味、動機を不明にしているのも主人公に対する説明が少ないのも意図的なものかもしれない。しかし、精神異常者だから何でもありというのはちょっと逃げのような気がした。

ミステリーに慣れていなければ混乱するかもしれないが、じっくり読み込めば作品の面白さは十分堪能できる。



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