反乱のボヤージュ 


2007.1.7 反権威主義 【反乱のボヤージュ】

                     

評価:3

■ヒトコト感想
大学時代の寮生活というのはどんなものなのか。多少の誇張はあるにせよ多かれ少なかれどれも似かよっている。本作が決定的に違うのは大学側との対立関係にある。反権威主義の典型ともいえる展開だが、大学側の送り込んできた舎監によって大きく様変わりしていく。力のないものたちが協力して権威に立ち向かうさまは読んでいてとてもわくわくする。そして舎監の名倉が礼儀正しく、敵ながらも頼りになるというのは理想的かもしれない。さまざまな問題が起こるなかで心のふれあいをもちながら、最後には名倉も学生達に協力する。どんな青春をすごした人でも、本作のような青春にかすかな憧れをもつはずだ。最後に寮内に閉じこもる場面ではヘルメットをかぶり時代遅れの学生運動風な様相をみせながらもバックには青春の象徴である懐メロなんかが流れているような雰囲気だ。

■ストーリー

坂下薫平19歳。首都大学の学生寮で、個性溢れる面々と楽しい日々を過ごしていた。だが、寮の取り壊しをもくろむ大学側は、元刑事の舎監・名倉を送りこみ、厳しい統制を始める。時を同じくして起こった、寮内のストーカー事件や自殺未遂騒動。だが、一つ一つのトラブルを乗り越えながら結束を固めた寮生達は、遂に大学側との戦いに立ち上がる。

■感想
人生の中で一番自由な時間があるのは大学生と老人だろう。学生たちの有り余る力や行き場のない衝動を吸収する大学という舞台では何が起こっても不思議ではない。時代遅れといわれながらも学生運動さながらに、啓蒙活動に勤しんでいる人もいることだろう。そんな自由な時間に経験したことはおそらく一生心に残っているだろう。そんな印象的な出来事がない普通の学生がかすかに心躍らせるような反乱を起こす。大学という権威主義の塊のような組織に対して戦いを挑む。それは途方もなく無謀なことのようにも思えるがわくわくする気持ちを抑えることはできない。

主人公である薫平がヒーロー性を持ち合わせておらず、どこにでもいる普通の学生ということに親近感がわく。舎監としてやってきた名倉という元刑事との関係。名倉の礼儀正しさと曲がったことは許さないという雰囲気。そしてちょっと
恋愛関係には弱い純情さが物語を心温まるものにしている。名倉というキャラクターがいなければ本作はただの身勝手な学生の反乱のような印象をぬぐいきれなかっただろう。

寮内で発生するさまざまな事件。事件の一つ一つは特に印象的なものはないが、事件を経験することにより、寮内のメンバーの結束が強まり最後には舎監である名倉までもが学生達に協力し始める。心優しく力持ち的な名倉が仲間に加わったことでいっぺんにただの学生運動風情が、大きな正義の衣に包まれたように正しいことをやっているというような雰囲気に変わってくる。結末に近づくにつれて、わくわく感と共に無謀な反乱というイメージが払拭されてくる。冷静に考えれば無謀だと気づくが、作品中の雰囲気はそれら全てを忘れさせるような勢いがある。

本作のような経験に無縁な人でも、青春時代のかすかな武勇伝を思い出すように懐かしい気持ちにさせてくれるだろう。もしその時代に戻れるのならば何か違ったことをしているかもしれない。



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