犯人のいない殺人の夜 


2005.9.25 純粋な行為が他人を死に追いやる 【犯人のいない殺人の夜】

                     

評価:3

■ヒトコト感想
様々なタイプのミステリーがつまった短編集。
複雑なトリックや複雑な人間関係は存在しない、非情にシンプルな世界の中で
一点集中するように物語を構築している
中でも「踊り子」はまさしく犯人のいない殺人であり、ものすごく心が痛くなった。
最後まで強く印象に残ったのは、純粋な行為が他人を死に追いやったという現実と
それに一生気づくことができず、ひたすら思い続けるというところだ。

■ストーリー
親友が死んだ。枯れ葉のように校舎の屋上からひらひら落ちて。
刑事たちが自殺の可能性を考えていることは俺にもわかった。しかし…。
高校を舞台にした好短編「小さな故意の物語」。犯人がいないのに殺人があった。でも犯人はいる…。
さまざまな欲望が交錯した一夜の殺人事件を描いた表題作。人間心理のドラマと、
ミステリーの醍醐味を味わう傑作七編。

■感想
東野作品のポイントはミステリー以外になにかしら作品に裏のテーマのようなものがあるところだ。
それを考えると本作の作品は全て直接的にせよ間接的にせよ殺人を犯した犯人達が
明確な意思をもってやったことではなく、ちょっとしたズレから起きてしまったことだ。
それをふまえると全ての作品に最終的には不幸な印象しか残らない
決してハッピーエンドには思えなかった。

自分の好意が他人にどれだけ影響を与えるかは実際にはわからない。
自分がよかれと思ってやったことが他人には重荷になったり、間接的にものすごい重大な事態を
引き起こすかもしれない。
実際にはそんなことを考えると何もできないのだが、現実には本作のように他人に知らず知らずのうちに
影響を与えていることがあるのだろう。
その結果どうなったかということを知らないので意識していないだけだ。

そう考えると「踊り子」はまさしくそのパターンであり、その対象が自分の初恋の人であり
最終的な結果を考えるととても悲しく苦しい物語だ。
現実的にはここまで辛い物語はありえないのだろうが、心に強く残った。

短編集ということで内容的にはそれほど重厚ではないのだが、長編にすればさらにすばらしくなりそうな
作品があったので是非とも長編にしてもらいたいものだ。



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