白鳥 


 2008.4.29  社会的地位のある変態 【白鳥】  

                     

評価:3

■ヒトコト感想
毎回思うのだが、かならず主役級の男は仕事的には成功し、社会的地位もあり女にも不自由しない。それでいて、どこか変態的な性癖を持つ人物が主人公となっている。本作もいくつかの短編が収録されているが、一番印象に残っているのは、後半の続き物だろう。今までの作者の作品と同様なテーマが感じられるのだが、他の作品に比べると格段に読みやすく、そして、理解しやすくなっている。技術的なことというよりも、物語の流れが普通に想像できる範囲内だということだろう。誰もが想像しえない、突飛な方向へ進むのが作者の魅力だとしたら、それは失われているかもしれない。ただ、この流れも悪くはないと思った。

■ストーリー

ホテルのスイートルームに忍び込み、男たちへの絶望を感じながら二人の女が体を求め合う「白鳥」。両親が重病になり、一人暮らしを余儀無くされた少年。彼の肉体から抜け出た“ボーイ”が、暴力的な街を行く「ムーン・リバー」。キューバを愛した女が引き起こす恋愛を描く「或る恋の物語」他。絶望を突破してゆく者たちを捉えた鮮烈な小説集。

■感想
どこか不思議な世界で、非現実的な世界を描くというのは作者の得意分野なのだろう。いろいろな作品を読んだが、まぁ、割とわかりにくいと感じる作品が多かった。それに比べると、本作はずいぶんとわかりやすく、すんなり物語の中に入り込むことができた。作品に登場する人物たちも、多少の癖はあるにせよ、それほど予想外な人物たちではない。感情移入するというところまではいかないが、それでも何かしら共感できる部分はある

それにしても、作者が描く世界の中には、かならず社会的な成功者が登場する。ただし、成功者ではあるが、どこか変態的な性癖をもっている人物だ。問題が起こるのも女がらみであり、そして、何か得体の知れないアンダーグラウンドの世界が深く関わってくる。もはや定番と言っていいのかもしれないが、毎回そうなってくると多少の飽きは感じてくるかもしれない。これが作者の特徴だと思うのだが最初ほどのインパクトはないかもしれない。

後半の作品は、つながりのある作品となり、当然他の作品と比べると印象深いものとなっている。全体を通して物悲しさを感じるが、特に後半の作品にはその傾向が強い。それぞれの短編では、主人公が人を求めるのだが、決してその人は振り向くことは無い。肉体的なつながりはあるのだが、精神的なつながりは無い。そして、ある日突然別れが訪れる。何をもって繋がりがあるかを考えさせられる作品だ。

全体的に読みやすく、物語に入り込みやすい作品だ。ページ数もほどほどなので、電車の中などでさらりと読むのに適している作品だろう。



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