蒲生邸事件 宮部みゆき


2006.7.6 新しいタイプのタイムトラベル 【蒲生邸事件】

                     
■ヒトコト感想
タイムトラベラー物はよくあるが、本作のようにタイムトラベラーの行動が歴史にまったく影響がないというのは新しいかもしれない。ありがちな未来を変えるために過去へタイムスリップするのではなく、その能力から神のように錯覚しがちなのだが、実は何一つできることはないという葛藤。未来を知った上で何もできない辛さ。そして時代にそぐわないという疎外感。しかしそんな時代的なギャップも”ふき”という心優しい女中のおかげでずいぶんと違うのだろう。そんなふきと時代を超えて出会いに向かう孝史の気持ちを考えると最後の場面は感動せざるおえない。

■ストーリー

予備校受験のために上京した受験生・孝史は、二月二十六日未明、ホテル火災に見舞われた。間一髪で、時間旅行の能力を持つ男に救助されたが、そこはなんと昭和十一年。雪降りしきる帝都・東京では、いままさに二・二六事件が起きようとしていた―。

■感想
タイムトラベルが連続でできない理由だとか、自分の好きな時代へ飛ぶための道だとか、かなり都合のいい部分があるように感じたが、過去の出来事をどれだけ変えても歴史的事実が変らないというのは面白い。変ることと変らないことの境界線がまた曖昧だが、それは許されることだろう。大きなことは変えられなくとも自分の身近な人を助けることには十分使える能力だ。

二・二六事件というあまり知られていない(と僕は思っている)事件を取り上げることがかなりマニアックであり
主人公の孝史と同じくその歴史的事実を知らない人も多いだろう。その時代の人がどんな考えをもち、どんな未来を想像して生活するのか。そしてそれを知ったとき、変えようのない未来が待っていることを伝えられない苦しさをひしひしと感じた。

現代人が50年以上も昔にタイムスリップした場合にどうなるのか、意外に普通に生活できているのはひとえにふきのおかげなのだろう。時代的なギャップも全て含めてふきという女中がいたおかげで孝史は生活できている。恐らく過去にいる孝史は時代のギャップは感じていないのだろう。しかし全てがおさまったあと、未来へ帰っていく孝史の辛さ。それはその時代に孝史がなじんでいたからこそ、より大きなものになったのだろう。

ミステリーっぽくはないが、時間旅行がどのように影響し、そして未来を知った昔の人間はどのような行動をとるか、恐らく現実にはありえないが、変えようのない未来を知ったら絶望してしまうだろう。





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