深追い 横山秀夫


2007.6.17 シンプルなタイトルが良い 【深追い】

                     
■ヒトコト感想
「深追い」「又聞き」「引継ぎ」「訳あり」「締め出し」「仕返し」「人ごと」壮大なトリックや大げさな事件が起きるわけではない。それぞれの短編のタイトルどおりの出来事が起こる。本作はどれも警察関係者が主人公となり、タイトルどおりの経験をする。その中でも「深追い」と「訳あり」は長編にしてもいいほど中身が濃く、物語の展開にのめりこんでしまった。事故死した夫にポケベルのメッセージを送り続ける女。そしてそれを哀れむ男。ここからどうやって盛り上がりを作るのか気になったが、多少強引な気がしたが絶妙な山場を作っている。そして「訳あり」では横山秀夫お得意の警察組織の軋轢をすばらしく描いている。

■ストーリー

「コンヤハ カレー デス」 事故死した夫のポケベルにメッセージを送り続ける妻。何のため、誰のために? 真の被害者は、罪深き行為とは。地方の警察署を舞台に組織に生きる人間の葛藤を描く警察小説集。

■感想
シンプルなタイトル。これが圧倒的に人を引き付ける。いきなり「深追い」と言われてもなかなかイメージできない。しかし読んでいくうちにその真意がわかってくると共に、事件の真相やタイトルの意味がわかってくる。シンプルなだけに様々な想像ができる。このタイトルがどのように物語りに関係してくるのか、序盤ではまったく想像ができない。それが終盤ともなると、おぼろげながらその全容が明らかとなり、最後にはきっちりと納得させてくれる。

中には多少強引とも思える部分もあるのだが、それまでの警察組織の緻密な描写と組織の窮屈さから、いつの間にかその強引さも心地よくなってくる。ワンアイデアの一発ものではなく、じっくりと作品として成熟されている。もしかしたらタイトルよりも先に物語が完成しているのかもしれない。物語に合うタイトルを後付したのかと思えるほど、ぴったりとはまるタイトルたちだ。

余計な説明なしで、ずばりそのもののシンプルな言葉をタイトルにすることで、硬派でそして男っぽいイメージを保ちつつ、横山秀夫作品のイメージを崩さない作品となっている。考えてみれば作者の作品は本作のようなシンプルなタイトルが多い。そして、タイトルだけですべてを想像できるようなことは決してない。作品を読んでいくうちにこのタイトルをつけた意味がわかってくる。今までの横山作品を踏襲しつつも、事件性よりも人の心の奥底を突くような作品たちだ。

警察関係者が主人公なため、終始堅い雰囲気があるのは否めないが、物語の根底には優しさのようなものを感じることができる。




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